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カバーデザイン 長谷川正治
人形 恋月姫
写真 片岡佐吉


スイートルーム

書下ろし官能アンソロジー

a38

《収録作品》

藍川京『熟れた肌』
睦月影郎『甘い蜜の部屋』
安達瑶『詐欺師兵助』
渡辺真澄『パジャマパーティ』
館淳一『隷嬢オークション』
ほか全11編。

《読者からの解説と感想》

 テーマを決めた書き下ろしアンソロジーの第3弾。
 お題は「スイートルーム」。
 ホテルのスイートルームを舞台に、手練れの官能作家たちの多彩な饗宴が幕を開ける。
 あなたなら、どの部屋に行きたい?

「甘い蜜の部屋」睦月影郎

 津村光司は、あこがれの女教師・田村比呂子が体育教師に犯されそうになっているのを発見し、思わず体育教師の後頭部を金属バットで殴ってしまった。
 ホテルのスイートルームに逃げ込んだ光司と比呂子は、残された時間を惜しむように、互いの身体をもさぼりあった。それは光司にとって、最高の初体験だった。
 ところが・・・。
 追いつめられた教師と生徒の束の間の性交が、丹念に描かれている。それだけに後半の展開が絶妙。

「熟れた肌」藍川 京

 信子は大学時代の恋人・翔吾との久しぶりの再会に神経が昂ぶるのを感じた。
 別れた後も、年賀状のやりとりだけは続けていたのだ。
 京都のKホテルで待ち合わせたふたりは、若い頃とはひと味違う、成熟した魅力をお互いから感じとっていた。
「あのころ、最高だと思ってたけど、今のほうが何倍もいい」
 ホテルのスイートルームに入ったふたりは……。
 成熟した男女の再会と交歓が繊細なタッチで描かれた作品。
 そう、年齢を重ねるということは、決して負の要素ばかりではないということを教えてくれる。

「貴婦人たちの夜」牧村 僚

 アカネ物産総務課に勤務する西垣は、次期社長選に向けて、社員ひとりひとりが、専務、常務どちらを支持しているかを内偵する特別任務を帯びて、ホテルのスイートルームにカンヅメになっていた。
 そこへ訪れたのは、専務の若くて美しい後妻・由梨菜だった。
「脱ぐわ。見ていて、西垣さん。あたしのストリップ」
 専務夫人の誘惑にめまいを感じる西垣。そして……。
 次々と起こる意表を突いた展開。
 サラリーマン小説の一種としても楽しめる作品。

「蜜肌交歓」北山悦史

 その日、ホテル・クイーンズのスイートルーム2705室と2706号室には、二組のカップルがいた。
 陽介と奈津子、正寛と亜由美。
 二組の夫婦は、正寛が見た夢がきっかけで、はじめてのスワッピングを楽しもうとしている。
「夢でやったようにしてあげましょうか」
「……夢より……ヨクして……」
 夢を仲介に展開する、ひと味ちがったスワッピング・ストーリー。
 携帯電話の使い方がニクい演出。

「桜の宿」鷹澤フブキ

 刺青師・彫梛は、老舗の高級旅館『華雅苑』の貴賓室に招かれ、女将である綾乃の背中に鯉の刺青をほどこすことになった。
 そしてそこで、かつての恋人・桜子と再会した。
「私の体に……、刺青を彫って欲しいの……」
 深夜の貴賓室で、桜子の肌に刺青を彫る彫梛。
 その夜、二人ははじめて身体を重ねた。
「アンッ、気持ち……イイッ……。身体がズクズクするわ」
 やがて桜の満開の季節となり、刺青も完成の日が近づいた。
 そして……。
 ホテルのスイートルームではなく、高級旅館の貴賓室という捻った設定のもと、刺青師という新鮮な題材を扱いながら、しっとりとした情感が漂う佳作。

「サディストの夜」伊東眞夏

 破産をまぬがれるため、大銀行との経営統合を画策するN銀行は、傍若無人な振る舞いをする相手先の会計理事・園田の接待に汲々としていた。
 その日、由美子は会計理事の苦情を聞くために、彼が泊まっているホテルのスイートルームへ呼び出された。
 そこで待っていたのは、想像を絶する屈辱的な命令だった。
 セクハラなどという言葉をはるかに超越したサディスティックな命令に、最初は抵抗しながら、やがて快感を感じて行く女性を描いた作品。

「もっと壊して……」
 ビジネスホテルの廃墟で、毎週木曜日の昼休みに繰り広げられる情事。
「あうっ、ふうっ、あ、あ、あ、こわ、こわれちゃう、ああ、そこだめ、あぅあっ」
 スーパーのレジ打ちをする平凡な主婦・亜祐子を襲った突然の陶酔。
 しかし終わりは、突然やって来た。
 快楽の渦に飲み込まれて行く女性の姿が、華麗な平仮名遣いで展開する。

「閉じていた蕾」辻原ゆう

 エステティシャン百瀬菜穂子のテクニックで、草薙良子ははじめて性の快楽を知り、自分が不感症でないことを確認した。
 そこで良子は、菜穂子に出張マッサージを依頼し、不毛な夫婦生活に活路を見いだそうとする。
 数日後、指定されたホテルのスイートルームで、良子と菜穂子の淫らなプレイがはじまる。
 それを見た夫は……。
 夫婦生活の活性化にエステティシャンが一役買うというお話。でもこれは、けっこう現実的な問題かも知れない。

「パジャマパーティ」渡辺真澄

 公園で知り合った主婦仲間の中島玲香からパジャマパーティに誘われた宮須雛子は、町でいちばん大きなシティホテルのスイートルームを訪れた。
 しかし女ばかりのパジャマパーティだと思っていた雛子の前に、玲香はムサシという名のホストを伴って現れた。
「奥さん。夜は長いんだ。楽しみましょう」
 レズビアンでホスト狂いの主婦から、今まで味わったことのない快楽の世界を教えられたヒロインの物語。3Pプレイに最初は抵抗しながら、次第に快感を高めて行くヒロインの描写が丹念に描かれている。

「詐欺師兵助」安達 瑶

 腕利きの結婚詐欺師・飯田兵助は、その日も国際線の機長(キャプテン)を装って、空港近くのホテルのスイートルームへ、新しい獲物である千寿子を誘い込んだ。
 だが、運の悪いことに、そこでもうひとりの獲物である真理恵と鉢合わせしてしまった。
 ふたりを別々の部屋に待たせて、兵助は情事の掛け持ちをするハメに……。
 そこに考えてもみなかった異変が!
 結婚詐欺師を主人公にしたコミカルな作品。
 それだけでも充分に楽しいのだが、後半に奇想天外な展開が待ち受けていて、読者を途方もない方向へ導いてくれる。集中一の怪作にして、快作。

 

「隷嬢オークション」館 淳一

 ブルゴン商事のOLるみ子が『スカラベ倶楽部』で「エミリ」と呼ばれるようになったのは、かつての愛人の紹介によるものだった。
「だんだん分かってきたことですが、私は、もっとモノのように扱われたいんだと思います」
 るみ子のマゾヒスティックな願望を見抜いたマダム真紀は、彼女をヒルトップタワーホテル赤坂のスイートルームで開かれるお披露目パーティに参加させた。
 それは女性をモノとして売買する、奴隷オークションの会場だった。
 下着姿で男たちの視線にさらされたるみ子は……。

「この子のアヌスも見たいのだが」
 真紀は頷いた。
「もちろんです。お見せしなさい。エミリ」
「はい……」
 るみ子はもう子宮の熱い疼きに耐えきれず、この場で指を使ってしまいたい欲求と戦っている状態だった。自分でも、
(私って、こんなに露出狂だったの……!?)
 驚くほどの昂ぶりだ。
(もう……、どうにでもして下さいッ)

 このテのアンソロジーでは、われらがぐらんぴ館淳一がトリをとることが多い。
 まさに真打ち登場って感じで、風格は抜群、もちろん内容も一冊のアンソロジーの読後感を圧倒的にする濃さだ。
 本作は作者が好んで描くオークションものの一篇で、ヒロインがスリップ(もちろんこれは、館ワールドの必須アイテム)姿で男たちの視線を浴びながら、羞恥にもだえ、うねるような快感の嵐に翻弄され、昇りつめていく描写が圧巻だが、控え室で順番を待つ時の心の動きも、期待と不安と羞恥が入り交じった皮膚感覚としてビンビン伝わってくる。
『スカラベ倶楽部』というのは、近年の館作品に頻繁に登場する会員制のSM売春組織。ゆるやかな連作形式をとりながら、その主催者、運営方法、様々な営業形態、そこに参加する女性たちの姿が描かれて行く。設定フェチの読者の方、『スカラベ倶楽部娼婦名簿』なんてのを作っくれないかな?
 舞台となったヒルトップタワー赤坂は、「媚肉の重み」(『不倫』所収)にも登場し、館ワールドの新たな名所となりつつある。
 ブルゴン商事については説明不要、だよね?
                          詩織

《作者より》

スイートルームは、よく sweet room (甘い部屋)と間違われるのですが、suite room と綴ります。洋服のスーツと同じで、揃いの、ひと組の、といった意味。
ホテルの部屋の場合、居間と寝室のように、二つ以上の部屋がある、続き部屋のことです。
「スイートルームを舞台に短編を」と言われて、すぐに思い浮かんだ設定はいくつかありました。
もともとぼくはスイートルームが好きで、これまでもホテルを舞台にした物語はだいたいがスイートルームです。
スイートルームが好き、というのは、まずリビングルームがあって、それからベッドルームという動きが描けるからです。
作中の主人公が、いきなりベッドのある部屋へ導かれるよりも、リビングルームでいろいろ前段階の何かがあったほうがスリリングです。さあベッドルームにどういう趣向があるか。ドキドキワクワク。(笑) このドキドキワクワク感が得られるのがスイートルーム。それに何よりゴージャス感がたまりません。
さて、ぼくの作品『隷嬢オークション』はタイトルでネタバレもいいところですが、スイートルームで行なわれる奴隷M女のセリに「出品」させられる若い女性の感情を描いた佳品です。(笑)
秘密高級クラブ『スカラベ・ドール』を訪ねたヒロインの、マゾヒストとしての願望はどのように満たされてゆくでしょうか。

                  

《書誌情報》

本書は廣済堂出版より廣済堂文庫の一冊(あ-10-3)として文庫判型で刊行された。
デジタルテキストは発売されていない。





ISBN4-331-361024-1
2003年7月1日=第一刷発行
発行=株式会社廣済堂出版
定価=619円+税

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