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カバーデザイン Kazuma Suzuki


無限冥宮

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《収録作品》

館淳一『六月の未亡人』
みなみまき『呼ばれた女』
矢切隆之『姦の罠』
ほか全12編


《読者による解説と感想》その1

 夫を不慮の事故で亡くした30歳の未亡人が、夫の遺品を整理していると秘密の品が続々と・・・
 その秘密とは 少年愛やホモに関することだった。
 彼女は事故の時に最後に一緒にいた、隣人の少年を呼びつけ、真相を確かめようとするが、その少年と関係を持ってしまう。
 夫の秘密の品の中に、ビデオテープがあったのだけど、未亡人がそのビデオを再生しているシーンは、私もその場でビデオを見ているようで、興奮しました。
 夫と少年たちとの記録が克明に表現されていて・・・
 自分はまだ未婚だけど、もし自分が突然未亡人になって、こういう立場になったら、どうするだろう?と、ふと考えました。
 館さんの作品を読み慣れているから、夫の趣味には驚かないかもしれないかな?(爆)

 メグ(MLメンバー)

《読者による解説と感想》その2

 夫が亡くなって二週間たった。
 未亡人となった早苗は美術講師をしていた亡夫・龍介の遺品を整理していて、それ を発見した。
 少年愛に関する書籍、ポルノグラフィ……。  夫の意外な側面をはじめて知った早苗は、段ボールの中に隠されていたビデオテー プに映し出された映像を観て愕然とする。
 そこに映っていたのは、同じアパートの隣部屋に住む雅己少年だった。
 少年は女性用のパンティを穿いていた。
 それは早苗のパンティだった。
 そして……。

 誰でも、他人には言えない秘密のひとつやふたつは持っているものだろう。それを 自分が死んだ後、いちばん知られたくない配偶者に知られてしまう。
 ああ、恥ずかしい!
 でもそれって、けっこう羞恥責めっぽくっていいかも……。
 ここで扱われるのは、少年愛、ホモセクシュアルといった、官能小説では特殊なテ ーマではあるが、ビデオを観る女性の視線で語ることによって読者の抵抗感を好奇心 に転嫁する作者の巧妙なテクニックが光る。
 そして登場するのは、女性の下着をつけた少年という、館ワールドにおいて最も美 しい生き物である。
 二重三重の倒錯感覚が、読者の平衡感覚を失わせ、無重力状態のような官能空間へ と誘う。それは、男とか女とかいった社会的な役割から解き放たれたホモ・エロティ ックスとでも呼ぶべき人間のあるべき姿なのかも知れない。

(美しい……)
 夫の勃起した器官は何度となく眺め、手に触れ、口に含んだこともあるのだが、こ れほど早苗の肉奥から揺すぶるような感動を与えたことはなかった。大人のそれは黒 ずんだ部分が増えてくるものだが、雅己のそれは鋳型からとり出したばかりの、まっ たく無垢の磁器のようにツヤツヤとして清潔感があるからだろうか。
 反射的に早苗は衝動を感じた。
(くわえてみたい……)

 「六月の花嫁」が幸福の象徴だとしたら「六月の未亡人」は何の象徴だろう?
 この小説を読むかぎり、それは決して「不幸」の象徴ではないようだ。

 詩織

《作者より》

 作家仲間でときどき語りあうのが、自分が死ぬ時、これまで集めたものをどうするか、という問題です。
 資料という意味ではたいていのものは問題がありませんが、私事で集めたものが問題です。自分以外、家族の誰にも知られていなかった秘密の趣味、あるいは秘密の交際。もし死が突然に襲ってきたら、それらの遺品は家族の目に触れてしまいます。
 そんなことを話していた仲間のYさんは、ある日、ボストンバッグをひとつ、焼却処分場へと持っていって焼いてもらったそうです。
 そのことを聞いて間もなく、彼は不慮の死を遂げました。自殺か事故か、非常に判定しにくい状況でしたが、直前に「見られたくない」ものを処分していたからには、覚悟の自殺ではなかろうか……と思ってしまいます。
 さて、ぼくには処分するものが山とあるのですが、Yさんのように上手に処分できるかどうか。
 自分だけに価値のあるコレクションだから他人には見せられません。生きている間は捨てにくいものです。というか捨てられるものではありません。人生の一部。
 となると、誰か信用できる人にその処分をしかと頼んでおくしかありませんね。では誰に頼んだものか……。
 あなたは大丈夫ですか? 見られて困るものを残しておくと、この作品のような物語が始まってしまいますよ。(笑)

《初出情報》

『六月の未亡人』…………『小説CLUB』1995年7月号

《書誌情報》

本書は桃園書房より桃園文庫の一冊(ア01-05)として文庫判型で刊行された。
デジタルテキストは発売されていない。





ISBN4-8078-0422-7
2001年2月15日=第一刷発行
発行=桃園書房
定価=800円+税

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