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カバーイラスト 妃 耶八
カバーデザイン ヤマシタツトム


教授夫人の素顔

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《読者からの解説&感想》

 あれは2007年7月に行われたサンケイスポーツ主催の官能小説講座(正式には「性ノンフィクション書き方講座」)でのことだった。毎年講師として参加されている館淳一さんは、ひととおり官能小説執筆に関する講義を終えた後、補講として、女性の性感帯のメカニズム、特にGスポットと「潮吹き」と呼ばれる現象にについての科学的な解説をされた。自ら女性器の断面図を黒板に描き、医学の専門書をひもとき、そこに掲載された実験の画像などを示されながらのお話は、まるで大学の医学部の講義のようでもあり、とても印象深いひとときだった。
官能小説等で、なんのためらいもなく使用されるGスポットや潮吹き現象というものは、体験的に語り継がれたもので、科学的に実証されたのはごく最近のことなのだという。感心して聴きながらも、こうした裏付けをしっかりと確認しつつ、リアリティのある官能シーンを描こうする作家の矜持を感じた次第である。
 本書の80ページから82ページにかけて展開される、前立腺、Gスポット、潮吹き、アナルセックスの快感についての簡潔で要を得た説明を読みながら、その時のことを思い出した。こうした知識は、誰も教えてくれない、まさに官能小説の教育的効果というべきものである。
 それはともかくとして……。
 館作品は、冒頭に謎めいた印象的なシーンが描かれることが多い。本作でも、少年が大学教授である義父の秘密を覗くところが描かれる。そしてその意味が物語の後半で判明した時、ドラマティックな価値観の転倒が行われ、新たな官能世界が現出する。
 そう、まるでよく出来たミステリ小説のように……。
 今回は、ファンにはおなじみの猿田探偵ですら推理の及ばなかった大きな謎が仕掛けられていて、事実が判明した時、作品の景色が劇的に変わるのだ。
 物語は、猿田探偵が高名な大学教授の依頼を受けて、教授夫人の素行調査をするかたちで進行する。そうして暴かれた教授夫人の素顔は、官能小説を読み馴れている人ならば、予想の範疇に入るものだが、ここで粋な趣向が描かれる。ビールを口移しで飲ませてもらうのだ。

「口移しですか」
「そうだ」
「かしこまりました」
 缶だけを手にしてプルトップを開けたはるみは、肘掛け椅子に浅く座っている男の膝に尻をのせてきた。
「失礼します」
 ひと口、泡立つ液体を含むと、自分の時間を買った男の唇に自分の唇を寄せていった。
 冷たい液が猿田の口腔に流し込まれる。それを猿田はゴクリと喉を鳴らして飲み、さらに催促した。
      (第二章 奇妙な潜入依頼)

 ここでまず、ゴクリと生唾を飲み込んだ。
 直接的な性交だけではなく、こうした場面に繊細で斬新なエロティシズムが盛り込まれているところが館作品の魅力のひとつである。
 こんなシーンもある。

「ああ、あーッ!」
「ひッ、ひいい、うあーッ!」
 さらに勢いをつけた打撃を受けて絶叫しながら悶え叫ぶ女の顔を眺め、瑛一の興奮も否応なく極限まで昂ぶってゆく。
(これもなかなかいい顔だ)
 そう思った。ふだんの顔は美人でも叩かれた時の顔は苦痛に歪むものだ。その歪みかたが阿修羅というか鬼というか、ひどく醜くなる女と、そうではない女がいる。後者のように美しく歪むというか、哀れな、悲痛な感じに歪んで苦痛と羞恥と、叩かれるとの興奮を表現する女はあまりいない。
 そしてこの女は、もともとの顔立ちが彼好みであるうえに、叩かれて興奮しながら見せる哀切な表情が、何ともいえず「美しい」のだ。
(いい顔して泣くなあ。よし、もっと泣け、もっと苦しめ)
      (第五章 マンションの女)

 顔もまた重要なポイントになる。単に美しいというだけでなく、独自の歪みに性欲を刺激されることになる。「そそられる」とは、まさにこういうことを言うのに違いない。
 広義のSMプレイを含む性行為は、コミュニケーションの一手段でもある。相手にどのような魅力を発見するかによって、互いの関係性もまた変わっていく。
 そう、関係性。
 意外な関係性というのが館ワールドの重要なモチーフであることは、今更言うまでもない。
 本作では、ソフォクレスも真っ青になるほどの意外な関係性の暴露と、『ソドムの市』も顔負けの肉欲の宴が、窒息するほどの勢いで読者に迫ってくる。
 個人的には、何度か名前が登場する「薔薇女」という女性が、『特命OL 淫らなプロジェクト』(2005年マドンナメイト文庫)に登場する「薔薇女」と同一人物かどうかが気になった。もし同一人物だとしたら、意外なところでさらに物語はつながり、妄想をかきたてる。
 真相はどうであれ、そうやって妄想して楽しむのも、読者の特権に違いない。
                       (詩織)

《作者より》

テーマとしては、「理想のセックスパーティ」でしょうか。
商売柄、取材で(取材ですよ!)いろいろなパーティに潜入してきました。
セックスパーティにもいろいろありまして、乱交を楽しむ乱パが一般的ですが、見て楽しむだけのショー主体のパーティもあります。そういうパーティでもSMプレイが主体とか、フェティッシュな欲望だけを鋭く追究するもの(たとえば全身タイツを楽しむとか)倒錯の種類だけ違った形のパーティがあると言って過言はありません。
そういうパーティやショーを見せるハプニングバーに出入りしているうち「こういうパーティがあったらなあ」と思うことがしばしばで、これが作品の重要なモチーフになったものも少なくありません。
この作品で描かれるパーティは、SM小説を書いてベストセラーを連発する覆面作家が主催する「出版記念パーティ」です。
作者とはまったく対極にあるような覆面作家は、自作が出版されるたび、秘密の会場を借りきって、そこでSMショーを主体とする乱交パーティを催します。
よほどのコネがないかぎり参加することができない秘密の性宴に、まだ二十歳前の予備校生がひょんなことから入りこむことになります。そこで彼が見たものは……。
ワクワクするような秘密パーティの昂奮を味わってみてください。
ストーリーはいつものようにいろいろこんがからかって、あの優秀な猿田探偵も首をひねるばかりです。(笑)

《書誌情報》

本書は書き下ろし作品です。
二見書房より二見文庫シリーズ(た1-4)として文庫判型で刊行されました。
デジタルテキスト電子本は二見書房「おとなの本屋さん」からダウンロード購入が可能です。





ISBN978-4-576-07242-5
2008年3月25日初版発行
発行=二見書房
定価=686円+税

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