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カバーイラスト 妃 耶八
カバーデザイン ヤマシタツトム


誘惑

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《読者からの解説&感想》

 まず、導入部が素晴らしい。
 主人公は専門学校『テクノアート電子学院』の学生・三田村聡志。
 ウェブデザインやCGアートを学ぶ学校という設定がきわめて現代的で、イ ンターネットを官能小説に取り入れた先駆者らしい趣向である。
 個人的にはデザイン関係の専門学校に通っていた経験があるので、学内の空 気感まで伝わってくるような気がする。
「JR高田馬場駅から歩いて5分」という立地条件から、作者の仕事場のある 界隈や、サンケイスポーツ主催で行われた官能小説講座を思い出して、ニヤリ とした読者もおられるだろう。
 この学院で、聡志が同級生の那須涼子から声をかけられるところから物語は はじまる。 実はこの二人、思わぬところで顔を合わせていた。それはSM専 門のホテル『オメガ・イン』の廊下だった。
 この一件がきっかけとなり、聡志はふだんは目立たない同級生の意外な顔を 知ることとなり、彼女が個人で運営している『快楽アシスタント』という風俗 店のパートナーとなるのだ。
 インターネットを利用した個人経営の風俗業、しかもカップル客しかとらな いというユニークな形態で、奇妙なパートナーとなった聡志は、涼子がSMの 道に足を踏み入れた経緯を知り、また自らの特殊な性体験を語る。そして二人 は、互いをよく知るために肌をあわせる。この場面の台詞がとってもステキ だ。

「バカねえ、これからすぐ、気心の知れる関係になればいいじゃない」
           (第一章 過激なHP)

 こんな台詞、一度でいいから言われてみたい!と思わされる。それとも、言 ってみたい、かな?
 こうして互いの性癖を知り合うことになる二人。もちろん、アブノーマルな 性戯にのめり込むきっかけとなった過去の体験が語られるところは、館作品の セオリーとも呼べる展開で、作品ごとに趣向が凝らされ、読者を楽しませてく れるのだが、本作ではこの回想シーンがストーリー全体に大きく影響する伏線 となっている。
 長年のファンにとっては、涼子の回想の舞台として久し振りに「ときわ市」 が登場するのも嬉しいところだ。
 特に高校の図書室で、級友が複数の男子に陵辱されるところを窃視する場面 が印象的だが、このシーン、全体を読み終えた後で振り返ってみると、まるで ブライアン・デ・パルマの映画を観るような眩暈にも似た感覚に襲われる。  これ以上はネタバレになるから言えないけど、ね。
 物語の後半は、パートナーとなった聡志と涼子が、顧客とともに繰り広げる 倒錯的な複数プレイの描写が読者を楽しませてくれる。
 そして、館ワールドには欠かせない「あの趣向」も、巧妙に盛り込まれてい る。

(こんな快楽があったのか)  肉体のあらゆる部分に女たちの舌や指や乳首や秘毛の丘が接触して、えもい われぬ快美な刺激を与えてくれた。
 ブラのカップの下に誰かの指がすべりこみ、乳首をつまんできた。
 ビビッと乳首を中心にして下半身へ何か電流が流れる気がした。くすぐった いだけではなく、痛みを伴った快感。そんな快感を味わうのは初めてだった。
「あ、ああー、あううう、うーん、ひいい」
 聡志はいつの間にか女のよがり声そっくりの調子の声をあげて身悶えしてい た。
「あッ、もうダメ」
          (第四章 倒錯プレイ)

 読んでいるうちに、痛痒いような感覚に思わず身をよじりたくなってしまう 描写である。
 こうして新たな快楽世界へと足を踏み入れた聡志。
 だが、物語は意外なクライマックスを迎えようとしていた。
 最近はあまり見かけなくなったような気がするが、ミステリなどでは「返金 保証」というスタイルの出版形態がある。
 本のクライマックスから結末部分を袋とじにして、ここまで読んで先を読み たくない、面白くないと思ったら、返品、返金に応じるという方法だ。
 よっぽど面白さに自信がなければとれないスタイルだが、本作のクライマッ クスからラストへの展開の見事さを味わったら、「返金保証」付きで袋とじに してもいいのではないかと思ったほどである。
 それくらい面白い小説です。
              詩織

《作者より》

ジャンルとしては「理想の風俗」でしょうか。
誰にとっての理想かというと、常に作者自身の理想なんですが。(笑)
東京の専門学校でCG実技を学んでいる聡志は、アルバイトとして男性ヌードモデルをしているうち、ウリセンボーイとして熟女の相手をつとめるようになります。
そうです、聡志は初体験の相手がムチムチに熟れた肉体をもつ伯母さんだったため、熟女をみると魅惑されてしまう若者なんです。
そんな彼に、同じ学校でウェブデザインを学ぶ美しい娘、涼子が声をかけてきます。
「昨日は妙なところで会ってしまったわね……」
それは『オメガイン』という、SM愛好者ご用達の専門ホテルでのこと。コンテッサと名乗る人妻と楽しんだ聡志は、出がけに中年男に首輪をかけられドレスの前をはだけさせられて歩く娘とすれ違います。なんとなく涼子と似ているのですが別人のようでもあり、「他人の空似か」と思ったのですが、なんと涼子のほうから「あれは私だ」と打ち明けたきたんですね。
なんと彼女は、自分のホームページ上で客を募り、カップル客を専門に相手する『快楽アシスタント』なる“ひとり風俗”でお金を稼いでいたのです。
「私と組まない?」
魅力的な娘は聡志を、自分のアルバイト稼業に誘いこみます。
なんと涼子は、実は少女時代の体験から、「О嬢」を理想とするマゾヒズムに中毒し、サディストの男女に身を任せ、辱められることに至上の快楽を味わうマゾヒストだったのです。
聡志は彼女の誘いを受け入れ、カップルの男女を相手に彼らの快楽に奉仕する『快楽アシスタント』として働くようになるのですが、サディストのはずの彼に、ある転機が訪れて……。
そこから話はだんだんわやくちゃになり、いつものように混乱状態のままクライマックスに突入し、アッと驚く結末へと駆け込んでゆくのでありました。(笑)

ぼくが考えた「理想の風俗」はいつの間にか現実の風俗となってゆくのですが、この「快楽アシスタント」業は現実のものになるでしょうか?

《書誌情報》

本書は書き下ろし作品です。
二見書房より二見文庫シリーズ(た1-3)として文庫判型で刊行されました。
デジタルテキスト電子本は二見書房「おとなの本屋さん」からダウンロード購入が可能です。





ISBN978-4-576-07164-0
2007年10月25日初版発行
発行=二見書房
定価=600円+税

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