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カバーイラスト 石井のりえ
カバーデザイン 松田行正


目かくしがほどかれる夜

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《読者からの解説と感想》

 一つの長篇で三本のストーリーが楽しめる贅沢な一冊。
 地下の競技場で、若い女性と格闘の末、男性能力の回復を計る男。
 極秘のセレブ女性を受精させるために、女医の秘密診察室を訪れる男。
 そして、自らの恵まれた体格にコンプレックスを持つ若い女性。
 三者の、それぞれ独立して読めるストーリーが、意外な接点で絡み合い、やがてひとつのクライマックスへと上り詰めてゆく。
 物語のクライマックスと性的エクスタシーが連動し、同時に頂点に達する快感は、館作品のほぼすべてに共通する醍醐味なので、今更指摘するまでもないが、本作ではそれにもまして様々な趣向が読者を楽しませてくれるところは、まさに「変態百貨店」と異名をとる作者の独擅場である。
 今回の趣向で目新しいのは、格闘技を取り入れた回春法や、サッカーのルールを逆手にとった性的遊技など、スポーツがらみの展開である。健康的なスポーツと隠微なセックスとが合体する対比の妙が楽しめるのだけれど、考えてみれば(考えなくても)スポーツ選手にエロティシズムを感じる嗜好は、それほど珍しいものではないし、ともに激しく肉体を使う運動なので、その爽快感にもまた、共通点があるように思われる。
 また、インポテンツの治療という趣向は館作品にお馴染みのものではあるが、本作を読んでいてふと思ったことは、官能小説を読んで、エロティックなイメージを喚起させるという行為もまた、インポテンツの治療になるのではないかということだ。あるいはそういう目的で官能小説を読む読者もいるのかも知れないと思い至った。そうした切実な想いに対して、真摯に対応しているのが館作品なのだ……と。
 そして本作を特徴づけるさらなる趣向は、なんと「生殖のためのセックス」という、まさに官能小説にあるまじき快挙である。ひたすら快楽のためのセックスを追求し、妊娠という現象に背を向け、無視しつづけることによって「大人のメルヘン」たりえている官能小説にとって、これは最大のタブーだ。だが作者は、この高いハードルを見事に越えて見せてくれる。

「うぎゃああ、あぎゃー……ッ!」
 牝猫がケンカの時に発するような甲高い絶叫があがった。
(すごいよがりようだ。うわ、締めつけもすごい。これでは食いちぎられそうだ)
 もちろん隆介の射出の意欲もどんどん高まってゆく。快感以外、何も感じられない。ペニスも膣もドロドロに溶けて融合し、どこまでが女の体、どこまでが男の体かも分からなくなってきた。
「おお、そろそろ……」
 隆介が女医の許可を求めた。
「はい、いいでしょ。奥さまもイキ続け。子宮口は開いている。いつでも射精して」
 耳元で甘く囁く令子。彼女の姿は常に彼の背後にあって、まるで下腹部を白衣ごしに男のピストンをする尻に押し付けるぐらいに密着させている。観察し指導する立場としては少し近づきすぎではないだろうか。
 ついにまた、目がくらみ頭の中が真っ白になる瞬間がやってきた。
「おおお、うう、いいー……ッ!」
 失敗を悔やむ者のような悲痛な唸り声とともに隆介は射精した。
「あうううー、あうーッ!」
 女体は、診察台を軋ませるようにして背をそり返らせた。
「うああ!」
 ドクドク!
                       (第二章 セレブの香り)

 この顛末は、もうひとつのサイドストーリーとして意外な展開を生むことになるのだが、それは読んでのお楽しみ!
 ただ、個人的な印象を言わせてもらうならば、このエピソードの顛末と読後感の爽快さは、どこか昭和の流行作家・梶山季之の作品に共通するように思えてならない。というのは、両作家が大好きな一読者の贔屓の引き倒しかも知れないけれど……。
 しかし、個人的な好みというならば、本作で最も「感じた」シーンは、お馴染みブルゴン商事のOL、桑田亜紀をめぐるエピソードなのだが、これに関してはネタバレになる危険性があるので、詳しく語れない。まるでテコの原理で重心が移動し、ある人間関係が逆転する。その瞬間にゾクゾクするようなエロティシズムが生じるのだ。反則スレスレでヒントを言うと、作中に登場するある固有名詞を記憶しておくと、ストーリーの展開よりも一瞬早くある人物の正体が読者に解る仕掛けになっているのだ。この部分、ミステリの解決篇直前のような高揚感がエロスを加速させて、絶品!
 ああ、言いすぎたかな?
 ちなみに本作は永田守弘著『官能小説の奥義』(集英社新書)の第四章「ストーリー展開の技術」でお手本として取り上げられ、人間関係の構成やストーリー展開の具体例が分析されている。官能小説家を目指す人にはいい勉強になると思うので、併読をオススメします。
                               詩織

《作者より》

『セクレタリ 愛人』(『愛人秘書』)から始まった幻冬舎での館淳一シリーズも、これで7冊めになりました。
これまではフランス書院で発行されたものの復刊というかたちでしたが、『女医令子』シリーズの『触診』、『秘密診察室』が好評だったので「これの第三部を書いてもらえませんか」と言われました。
ぼくも「令子女医をもう一度書いてみたい」と思っていたので、それでは、と十三年ぶり(フランス書院の『姦虐病棟』から)、令子が誕生してからは十六年ぶりの復活を果たしました。
というわけで、タイトルにはうたってありませんが、これは「女医令子」シリーズ第三部になります。
もちろん、前二作をお読みになられていなくても読者はじゅうぶん楽しめるように作ってあります。
男の能力を喪失したED患者の治療にいそしむ美貌の女医、鷹見令子は、マスコミ界の風雲児と呼ばれる福川隆介の秘密の愛人でもあります。今回は(というか、今回もまた)その隆介が災厄に見舞われます。大学時代から犬猿の仲だった人物が富豪となり、隆介が会長をつとめるテレビ局『チャンネル・メッツ』に敵対的TBО、公開株買い付けをかけてきたのです。
財力にモノをいわせる不動産王・倉田の攻勢によって隆介は窮地に追いつめられます。
そこに舞い込んだのが、令子の親友、二条於紀子教授がもたらしたある情報――。
一方、背が高すぎるのがコンプレックスだったОL、桑田亜希は女弁護士のはからいで、特殊な性的サービスを行なうDC(デートクラブ)で働くことに。彼女はめぐまれた体力にモノを言わせて売れっ子になってゆきます。そんな彼女に女性経営者はある提案をもちかけます。
――いつものように謎は謎を呼び、スリルはスリルを呼ぶ目まぐるしい展開。440枚という長編なのに落ち着いて濡れ場を楽しめないのが唯一の欠点ですが、ふつうのポルノより三倍楽しめることは確実です。
もちろん、意外なオチもありますです。(笑)

《初出情報》

この作品は未発表・書き下ろし作品です。

《書誌情報》

本書は幻冬舎より幻冬舎アウトロー文庫の一冊(O-44-7)として文庫判型で刊行された。
デジタルテキストは発売されていない。





ISBN4-344-40891-8
2006年12月10日=第一刷発行
発行=幻冬舎
定価=533円+税

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