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カバーイラスト 石井のりえ
カバーデザイン 井上則人デザイン事務所


メル奴の告白

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《読者からの解説と感想》

 ブルゴン商事の冴えない営業マン・酒巻春夫は、コーヒーショップで小耳にはさんだ会話から〃画像メール調教〃というものの存在を知る。メールで指示した調教命令の実行結果をセルフ撮りの画像によって確認出来るというシステムだ。
 その『ダーク・ダンジョン』というサイトに接続した春夫は、「みゆき」と名乗る人妻にターゲットを絞り、メッセージを送信した。
 偶然発見した、ある〃まじない〃によって、見事に多数の応募者の中から〃ご主人さま〃に選ばれた春夫は、画像メール調教という未知の領域の魅力の虜となりつつ、スパンキングに強い関心を持つ人妻に次々と恥ずかしい命令を実行させ、リアルな世界での調教を夢見る。
 羞恥系の露出願望のある可憐な女子大生・綾乃、そして失禁プレイに憧れる美貌の社長秘書・絵里。  次々とあらわれる魅力的なメル奴たち。
 果たして〃リアル調教〃という春夫の夢は実現するのか?

  ジョロジョロ。
  年下の美女の尿を浴びせかけられ、ごくごくと飲んでいるルナ姫の下半身
  また液体が洩れる音がした。再び膀胱が満杯になり、失禁が始まったのだ。
 「すごい、上から飲んで下から出している!」
  美女二人が演じる放尿失禁ショーを眺める客たちが驚きの声をあげた。
  最後のひと雫を出しきり、それをルナ姫が飲み干した時、見上げる女が訴
  えるような声で言った。
 「清めさせて」
 「いいわよ」
                          (第三章 社長秘書)

 インターネットの普及は、確実に人間のコミュニケーションの在り方を変えつつあるように思う。不特定多数の人間と出会うことが可能であり、匿名性を隠蓑にして、秘められた欲望を解放することも出来る。顔や本名、年齢や素性などを隠してコンタクト出来るので、現実の世界でのしがらみから解放された、赤裸々な自分をぶつけることが出来る。その結果、ふだんはひた隠しにしている特殊だったり異常だったりする性向の告白が最初にあり、徐々に年齢や素性、そして本名と顔が明かされてゆくことになる。そう、通常とは全く逆の順番でコミュニケーションが成立していくのだ。意外な出会いは意外な関係性に発展して、やがて仮想空間を飛び出して現実の生活に影響を与える。
 作者は早い時期からこのインターネットの〃新しいコミュニケーションの領域〃に注目し、意欲的に作品に取り入れてきた。今では「インターネットもの」というのは官能小説の一ジャンルを形成するほどになっているが、いわば館淳一はその領域での先駆者である。
 本作では〃画像メール調教〃という趣向で読者を楽しませてくれる。
 メールの文章を読み進むうちに、ネットの向こう側で次第に淫らになっていく女性の姿が浮き彫りにされてゆき、読者もまたその調教行為に参加しているような錯覚に陥れるのだ。それぞれの女性の告白が、この作品の読みどころである。
 告白というスタイルは官能小説に適しているように思う。誰でも他人の秘密は覗いてみたい。告白の文体は、本人から直接、こっそりと秘密を打ち明けられるようなゾクゾク感があるのだ。
 主人公はその告白に一喜一憂し、時には思ってもみない意外な展開に翻弄されながら、理想の奴隷を捜してメールを送りつづける。その姿に自分を重ねあわせる読者も少なくないに違いない。
 ネットの向こうには確実に生身の人間がいる。思い通りに調教しようと思っても、想定外の事態に、メル奴が暴走してとんでもない展開になることもある。そういう意味では、第二章に登場する女子大生・綾乃の告白が圧巻。主人公の春夫くんには申し訳ないけれど、レズビアンものが好きな読者にはたまらない展開になる(って、ちょっとネタバレかな?)
。  本作はまた、一連の〃ブルゴン商事もの〃の系列に連なる作品であり、サラリーマン小説としての面白さも加味されている。こちらの趣向にはある伏線が張られているのだが、読者の期待をはぐらかしつつ、予想を上回る展開になるところは見事。
 新聞連載という形式で書かれた作品だけに、エピソードを繋いでいくかたちになっているが、通勤電車に揺られながら、この小説をひとときの憩いとして読み継いでいったサラリーマン諸氏のことを想像すると、ちょっとうらやましい気がする。

                               詩織

《作者より》

この作品は2004年から2005年にかけて『日刊スポーツ』紙に連載されたものです。 原題は『メル奴をさがせ』。
半年180回の連載でしたから、かなり分量が多いのですが、新書版で官能シリーズを創刊したばかりの太田出版が「二段組にすれば一冊におさまります」と言ってくださり、刊行を引き受けてくれました。

「メル奴」とはすなわちメール奴隷。インターネット上で行われている疑似SMプレイですね。
Mの女性が掲示板などでSの男性に調教命令を発してもらい、単独でそれを実行し報告する、というものです。
「なんか、面白いような、面白くないような……」
そう思われる人が多いでしょう。(笑)
面白い、という部分は、オンラインで他者を動かす、支配する、その快感です。
面白くない、という部分は、必ずしも双方向のやりとりにならないところです。
バーチャルな世界のことですから主導権はMの側にあり、イヤな命令には従わない、無視する、気にいれない相手とは連絡を断つ、ということが可能です。
また、命令に従ったかどうか、テキストによる報告だけでは分かりません。いくらでもウソの報告ができます。まあ、その虚虚実実の部分を楽しめる人は楽しめるのですが、ハッキリした手応えが得られないもどかしさがつきまといます。
SMが好きな人は誰でも最初はハマるものですが、メール調教の限界を感じると飽き足らないものを覚え、離れてしまう人が多いのではないでしょうか。

日刊スポーツでは以前に『濡らし打ち親指ハンター』という連載(No.119『美肉狩り』)をやりましたがこれはメールナンパものでした。
「今度はメール調教でなにか書けないだろうか」と注文されて最初に考えたのは、メール調教のつまらない部分をいかにしたら刺激的にすることが出来るだろうか、ということです。
それまでもメール調教についても多くのサイトや掲示板を歴訪していたのですが、そのなかで一番そそられた場はどこかというと、メル奴の側が調教命令をいかに実行したか、その過程を逐一、デジカメで撮影して(当然セルフ撮りになります)アップロードしている掲示板でした。
なにせ画像ですからウソがききません。「どこそこで全裸になれ」「○○でオナニーしてみろ」などという命令がどのように実行されたか、その結果が画像で報告されるのです。これはSの側の昂奮をおおいに喚起させるものでした。
「よし、じゃあ画像調教でゆこう」
そこを出発点にして何人かのM女性の告白を中心に物語を進めることにしました。
デジタルカメラが携帯電話にまで搭載される時代ならではのお話しです。

本当は多くのM女を出そうと思ったのですが、ぼくの悪い癖で手短にチャッチャッと描写をすませることが出来ません。一人の女性を出すと描き尽さないとおさまらないのですね。(苦笑)。そんなわけで実際にメル奴として登場するのは三人にとどまりました。でも三人とも実に個性豊かな、刺激的な女性であります。面白い感性も持っています。
そしてもう一人、メル奴ではない、リアルの世界でかかわりを持つ女性も登場します。
四人の女性を相手に奮闘する主人公は、まあいつもどおり、見栄えも仕事ぶりもパッとしない、性欲だけは強い独身サラリーマンです。
読者には感情移入しやすいと思います。(笑) どうぞ読んでみてください。

《初出情報》

日刊スポーツ2004年10月1日〜2005年3月31日連載、『メル奴をさがせ』(大幅加筆訂正)

《書誌情報》

本書は太田出版よりOh!ta 太田新書の一冊(A-0104)として文庫判型で刊行された。
デジタルテキストは発売されていない。





ISBN4-7783-0104-8
2005年9月13日=第一刷発行
発行=株式会社太田出版
定価=880円+税

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