実寸大表紙へ

カバーイラスト 佐藤与志朗


特命OL

淫らなプロジェクト

128

《読者からの解説&感想》

 ブルゴン商事に勤務する保阪崇は、出会い系サイト『あぶちゃんねる』を通じて知り合ったグレというハンドルネームの男から、変態系のオフ会に誘われた。そのオフ会で、噂の〃薔薇女〃を紹介するというのだ。
 薔薇女は確かにとびきりの「いい女」で、良家の人妻でありながら、底無しの淫乱マゾヒストだった。
 しかし、問題がひとつだけあった。
 どんなサディスティックな責めにも敏感に反応する薔薇女は、未だオルガスムスを 感じることがなかったのだ。
 一方、ブルゴン商事の新人OL・高瀬ミクには、人には言えぬ倒錯した性癖があった。
 昼休みのたびに旧館の会議室に忍び込み、狭いキャビネットの中に密閉されることによって、性的快感を味わうのが日課になっていた。
 ある日、いつものようにキャビネットの中で密かな楽しみに浸っているところを上司に見つかってしまった彼女は、ある特別な任務を命じられ、不審な社員の行動を監視するうち、秘密の輪姦パーティに参加することになる。
 そこで明らかになった真実とは?

   ★

「う、うぐー……!」
 ミクは悲鳴にも似たよがり声をあげ続け、最後に強烈な痙攣を伴うオルガスムスで全身をうち震わせ、失神した。透明な液が放物線を描いて二度、三度とふり撒かれた。
「ほうー」
「これは凄い」
 二人の男は満足気に笑いあった。
「処女のくせに膣でイッた女。この子が初めてじゃないですかね」
                   (第四章 処女膜で蠢く医療器具)

 館淳一作品の特徴のひとつは、性行為そのものよりも、そこに至るまでの過程を入念に描くことにあるのは、よく知られたことである。
 本作でも、ヒロイン高瀬ミクはとても風変わりな嗜好の持ち主として描かれている。
 彼女は密閉された狭いキャビネットの中で、手も使わずにオナニーに耽り、絶頂に達するのだ。
 これはある種の胎内回帰願望だろう。
 密閉された狭く暗い空間は、どこか母親の胎内を連想させる。
 誰もがこの世に生れ出る前に体験した、濃厚な闇の記憶……。
 オルガスムスが疑似的な臨死体験だとしたら、誕生以前に退行するこの自慰行為は、人間存在の根源に溯行するような、あるいは宇宙と直結したような不思議な快感を読者に提示する。
 そう、誰もが思いつかなかったような、でも潜在的には持っている快感スポットを開拓し、新たな官能ゾーンへと私たちを導くのだ。
 一見突飛に見える着想だけど、ラバーマニアがゴムとの密着感、密閉感を好むように、閉所恐怖症とは逆のベクトルの欲望としてリアルに想像できる。
 曲芸師が小さな箱の中に納まってしまう芸を見たことがある人なら、そこにエロティックなものを感じたことがあるのではないだろうか?
 この趣向は先行する短篇「詰めこまれる欲望−−快楽梱包術」(『甘媚な儀式』所収)を発展させたものであり、江戸川乱歩の「人間椅子」にも通底し、『盲獣』の触覚芸術論をも包括しながら、安部公房の『箱男』へと繋がる豊かなイメージとしてここに結実している。
 安部公房?
 そう、『砂の女』や『密会』など、安部作品にはエロティックなイメージが濃厚である。
 表現のスタイルは異なるものの、館淳一と安部公房の作品群には、乱歩ワールドを継承し発展させつつ、官能の前衛として、未知の領域を切り開く姿勢に共通する作家性を感じるのだ。
 そういえば、窃視への関心の在り方にもまた、共通項を見いだせる。
 その先に見えてくるのは、人間という奇妙な生き物の不思議さであり、愛らしさである。
 高瀬ミクは、館作品でもとびっきりチヤーミングな女性として描かれている。それが本作の最大の魅力である。
 彼女を特命OLに仕立てた人物の相棒として登場する猿田探偵(館ファンには御馴染みの常連キャラ)は「どうも後をひく子ですな」と言い、彼等の罠にはまった男ですら(こんな女と結婚したらどうだろうか……)と、ふと思ったりするのだ。
 どこにもいないと知りつつ、でも、どこかにいそうな夢の女。
 そんな女性を描き出すことにこの作品は成功している。
 また著者の一連の「ブルゴン商事もの」がそうであるように、本作も企業ミステリとしての面白さがあり、最新のテクノロジーを駆使した警備システムなども登場し、ストーリーと描写が有機的に絡み合った独特なグルーヴで読書の快感を加速する。
 これこそまさに「読む官能」である。

                            詩織

《作者より》

書き下ろし長編です。
東京・赤坂に本社をかまえる大手商社『ブルゴン商事』が舞台。
主人公は総務部庶務課に配属されたういういしい新人OL高瀬ミク。
ほっそりして小柄な体形。つまりヤセのチビ。 豊満好みの館淳一にしては珍しいキャラが登場しますが、これが重要なポイント。(^_^;)
彼女はある日、書類を届けに社史編纂室という部署を訪ねます。
そこは最先端ハイテク設備を整えた本館ビルとは隔絶された旧館ビルのなかにあり
室長の赤木老人は六十歳を過ぎた人のよさそうな老人。
彼はミクの疲れを手を握って擦ってやるだけで治してしまう。
まったく仕事のない暇も暇な部署。部下もいない小部屋で、
かつては刑事で総会屋対策にあたっていた人物が何をしているのか?
そんな疑問を抱いたミクは、ひと気のない旧館のなかに、静寂に満ちた空間を発見する。
彼女は人に言えない性癖の持ち主だった――。
発見した空間は彼女を招いてやみません。

ミクの秘密を知った赤木室長は、最近、彼を悩ませている問題を解決するため、
非常に奇妙な形でOLをリクルートする。

館ワールド始まって以来の奇癖をもつヒロインと、あの清瀬老人を彷彿させるサブキャラがコンビを組み、
『ブルゴン商事』を襲う災厄を防ぐために立ち向かう。
その災厄の中心にいるのが「薔薇女」(ばらじょ)と名乗る不思議な女。
どんな責めをも歓迎する究極の真性マゾヒスト。サディストたちの夢。
なにが彼女を苦痛と汚辱に満ちた世界へいざなうのか?
私立探偵の猿田がつきとめた薔薇女の正体とは……?
最先端ビルのなかに秘かに構築された「パナプティコン」をめぐる、
“サウザンド・アイ・プロジェクト”とは何か?
謎が謎を呼び、危機が危機を招き、邪まな欲望が欲望を招く。
常識人を排除する館ワールドの妖しい怪しい魅力爆発!
さあ、あなたはとんでもねー世界にトリップだ!(笑)

《書誌情報》

本書はマドンナ社よりマドンナメイト文庫シリーズ(た1-42)として文庫判型で刊行された。
他の媒体では発表されていない。





ISBN4-576-05047-8
2005年4月10日=第一刷発行
発行=マドンナ社
発売=二見書房
定価本体543円+税

トップへ | 著作リスト1へ