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カバーイラスト 緒方ユージ
カバーデザイン H2


淫色

122

《収録作品》

『人妻・被虐の宴』
『夫の秘密』
『淫蕩ナース』
『悦楽の密室ビデオ』
『堕ちてゆく歓び』
『肉欲デジャ・ビュ』
『鞭の季節』


《読者からの解説と感想》

人妻・被虐の宴

 富田沙奈恵がフェティッシュ・バー『エクスプローラー』を訪れたのは、夫が留守の間だけ、期間限定のマゾ娼婦として働き、ある願望を満たすためだった。
「沙奈恵さん、まずあなたが、どうしてこんな所へ、わざわざやってくることになったのか、それを説明してください。あなたのマゾヒズムの願望がどうして生じたのか、そこから始めて」
 マダム杏子の問いに、沙奈恵は汐見市の高校で体験した、ある異常な出来事の顛末を語りはじめた。
 それは……。

 人生を決定してしまう出来事というものがある。それがどれほど忌まわしい想い出であっても、その呪縛から逃れられない記憶。
 本作のヒロインもまた、そんな記憶に背中を押されるようにして、マゾ娼婦となって行く。
 回想シーンの見事さは館作品の特徴のひとつだが、本作でもたっぷりと堪能出来る。そしてラスト一行のリアリティは絶品!

夫の秘密

 無店舗型風俗店『レディース・ワンダー・サービス』で働く優奈は、半年ぶりに瀬能真佐子の指名を受け、夢見山の瀬能家を訪れた。
 真佐子は奇妙なお客だった。嫉妬深い彼女の夫は、男との浮気を禁じるかわりに、相手が女ならと、レズのデリバリーヘルスを妻にあてがったのだった。
 レズの経験がなく、同性に対する欲望を感じたこともない真佐子だったが、優奈のテクニックに乱れ、最後は失神したようになった。以来、頻繁に優奈を呼ぶようになったが、四ヶ月ほどして、ぱったりと指名がとぎれてしまった。
 半年ぶりに訪れた瀬能家は荒れ果て、異様な気配が漂っていた。

 一見平凡なタイトルに騙されてはいけない。
 本作は『特選小説』2003年4月号の特集「不倫妻の非日常SEX」に掲載されたもので、後半には館作品では珍しい非日常的冒険譚が展開する。そして読者を意外な結末へと導くのだ。
 デリバリーヘルスの風俗嬢と人妻の奇妙な友情も味わい深い一篇である。

淫蕩ナース

 市立ときわ総合病院の産婦人科に勤務する看護婦・湯本奈津美は、同病院の産婦人科医・麻田芳樹の愛人であり、マゾ奴隷だった。
 白衣の下には、いつも淫らな下着をつけ、診察室で自ら辱めを請う。
「よし。『マリーン』で特別診察だ。その前に前処理をしてやる。パンティをおろせ」
 診察室でいたぶられた後、ラブホテルでフィストファックというのが、いつものコースだった。
 だが最近、芳樹の関心が若い准看護婦・水谷裕子に向いていることを知り、奈津美は愕然とした。
 それから数日後、ある偶然から、奈津美の脳裡に悪魔のような復讐計画がひらめいた。

 看護婦(士)というのはハードな職業だと思う。過酷な仕事のストレスが、彼女たちを過剰なセックスに追い立てるのだとしたら、誰もそれを責められないに違いない。
 本作は作者お得意の病院ものだが、リアリティあふれる描写と相俟って、愛に飢えた看護婦の姿が浮き彫りにされていく。
 特に医療ミスを扱ったクライマックスのサスペンスは鳥肌モノ。

悦楽の密室ビデオ

『マドンナ』という名の、その個室ビデオの店は、雑居ビルの一画でひっそりと営業していた。冴えない風貌の偏屈そうな親爺がひとりで経営していた。
 外回りの仕事が多い営業マンの信二は、思いがけなく空いた時間を持て余して、以前から気になっていたその店に入ってみることにした。
 最初はごくありきたりの個室ビデオに思えた。だが、ドリンクの出前をオーダーした彼の前に現れたのは、超ミニにタンクトップという露出的なコスチュームを着たコンパニオンだった。
(うへ、ノーブラだ!)

 これも作者お得意の「理想の風俗店もの」の一篇。
 さりげない書き出しから、次第にエスカレートしていく店のサービスの描写が、主人公の視点で描かれ、まるで体験レポートのように追体験出来る。そう、主人公の驚きや歓びが、ビビッドに伝わって来るのだ。
 軽妙なオチも効いている。
 そして何よりも、信二のお相手をするミキという風俗嬢が、とってもチャーミング!
 広い東京のどこか片隅の風俗店で、ミキちゃんは、今も男たちを楽しませている。そんな気持ちにさせられる。

堕ちてゆく歓び

 食品卸会社『マルシン・デリカ』に勤務する里中尚美は、領収書の書き換えを上司である茂木課長に発見されてしまった。
 弱みを握られた尚美は、ホテルに連れ込まれ、女奴隷のように扱われるうちに、パンティの底がじっとりと濡れそぼり、表面までシミが広がってしまった。
「おまえは自分を罰したいんだ」
 尻を叩かれ、啜り泣きながら尚美は、信じられないほど濡れている自分に驚いた。

 自己処罰衝動に突き動かされるように、堕ちてゆく歓びに濡れるOLの姿を描いた作品。
 罰を受けたいがために罪を犯し、罰への欲求がエスカレートしてゆく。
 つくづく人間というのは不思議な生き物だなと思う。

肉欲デジャ・ビュ

 ロイヤル百貨店情報システム部に勤務する加倉井翔子は、ここ数日、コンピュータのディスプレイに向かうたびに、不思議な身体の疼きを感じていた。
 職場で発情してしまい、トイレでオナニーして興奮を静める日々が続いた。
 不思議なことはそれだけではなかった。
 時々社内で見かける派遣社員の瀬能香奈に奇妙な既視感(デジャ・ビュ)をおぼえ、眼が離せなくなってしまったのだ。
 やがて淫らな幻聴と幻覚が翔子を襲いはじめる。
 そんなある日、上司の村山から仕事の能率が落ちていることを指摘され……。

「反省しろ」
 左手で彼女の首根っこを押さえるようにして、ブン、と腕をふるって平手で若さの張りつめた白い臀肉を打ちのめした。
 ビシッ!
「ああっ!」
 バシ!
「痛い……っ!」
 こんなふうに屈辱的なお仕置きを受けたことなど、もの心ついて以来のことだ。苦痛と羞恥と屈辱で彼女の自尊心は崩壊した。
「おおお」

 まさに電脳官能ミステリとでも呼ぶべき傑作。
 この作品については、詳しく感想を書くとネタバレになりそうなので、これ以上は言えない。
 特にサスペンスフルな前半が絶品。
 早い時期からパソコンを導入し、インターネットを含むその豊富な可能性を官能小説に注入してきた作者ならではのアイデアが光る一篇である。
 もちろんこれも『館淳一官能ミステリ傑作選』(あ、今んとこわたしの頭の中にだけある妄想だからね。実在しないからね。念のため)のノミネート作品だね。

鞭の季節

 弘志は叔父の龍介にたのまれて『SMプレディター』というマニア向けの専門誌を購入した。そこには全裸で宙に吊られ、鞭打たれる美和の写真が掲載されていた。
「知ってる? 鞭って最高の愛情表現なんですよ……」
 彼女の囁くような甘い声が思い出される。
 美和と知り合ったのは、ひょんなことがきっかけだった。
 学会の帰りに東京へ一泊した叔父に、資料を届けに行き、叔父が妻に隠れてM女をホテルに呼んでいるところに遭遇してしまったのだ。
 口封じのために、美和とプレイをするハメになった弘志は、はじめて女体を鞭打ち、その快感に激しく勃起した。
 そして……。

 SMにめざめるきっかけは人それぞれだろうけれど、この小説のようなハプニングがあったら、きっと楽しいに違いない。
 それだけでも楽しい夢のようなSM入門小説なんだけど、この作品にはさらに楽しい仕掛けがほどこされている。
 ラストの幸福感はたとえようもない。

                         詩織

《作者より》

 桃園書房からは、かつて『華麗なる情事』という新書版短編集を出していますが、02年、桃園文庫シリーズで『愛淫』が出ました。『淫色』は文庫版第二弾ということになります。

 収録された短編は、新作2作、旧作4作というハイブリッド版となりました。
短編集を何冊も読まれたかたは、重複していないかどうか、《初出情報》を注意深くお読みください。
 初出情報データで「掲載号調査中」とある『淫蕩ナース』(原題『白衣は邪淫にまみれて』)と『肉欲デジャ・ビュ』(原題『電子回路に淫獣潜む』)は、たぶんSMスナイパー誌、1987〜88年頃に掲載されたものです。
 とすると、最も古いものと新しいものとの間に15年以上もの時間的な差があることになります。
 それらの作品を読み比べて、館淳一短編の、15年の歩みを検討するのも、楽しみかたの一つではないでしょうか。(笑)

《初出情報》

『人妻・被虐の宴』   「特選小説」2002年11月号

『夫の秘密』      「特選小説」2003年4月号

『淫蕩ナース』    「SMスナイパー」掲載号調査中
              (原題『白衣は邪淫にまみれて』)
              短編集『牝犬邪淫調書』に収録

『快楽の密室ビデオ』  「小説CLUB」1989年8月増刊号

『堕ちてゆく歓び』   「月刊小説」1989年8月号
              短編集『牝犬邪淫調書』に収録

『肉欲デジャ・ビュ』 「SMスナイパー」掲載号調査中
              (原題『電子回路に淫獣潜む』)
              (短編集『牝犬邪淫調書』に収録

『鞭の季節』      「別冊小説宝石」1995年初夏号
              短編集『牝猫・被虐のエクスタシー』に収録

*印の作品に関して、初出情報をご存知のかたは教えてください。

《書誌情報》

本書は桃園書房より桃園文庫の一冊(た03-02)として文庫判型で刊行された。
デジタルテキストは発売されていない。





ISBN4-8078-0477-4
2003年6月15日=第一刷発行
発行=桃園書房
定価=571円+税

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