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カバーイラスト 脇庄次
カバーデザイン H2


愛淫

117

《収録作品》

『秘術・不倫指南』
『奇妙な調査』
『復讐するは指にあり』
『素足にハイヒール』
『妻の愛人』
『姉の愛人』
『春愁エロティカ』


《読者からの解説と感想》

「秘術・不倫指南」

 田宮麻希子がフロント・クラークとして勤めるホテル『マリンビューときわ』に、ひとりの奇妙な宿泊客がいた。李明琴(り・めいちん)という名の、若い中国人娘だ。
 ひょんなきっかけで、明琴がある種の超能力者であることを知った麻希子は、上司にもちかけられた難題を相談するために彼女の部屋を訪れた。
「脱ぎましょう」
 言われるままに全裸になった麻希子に明琴の身体が重なる。
「私のエネルギーを与えます」

「愛欲輻射線」(『妻の調教』収録)に登場した気功術師・李明琴が活躍するシリーズの第2弾。
 今回は御馴染みの「ときわ市」を舞台に、人妻キャリアウーマンの悩みを解決するだけではなく、さらに大きな役割を担っての登場である。
 もしこんな人物が実在するなら、是非出会ってみたい思わせる魅力的なキャラクターである。
 彼女が活躍するエピソードを、もっとたくさん読みたい、出来れば長篇で読みたいと思うのは、わたしだけかしら?
 違うよね、きっと……。

「奇妙な調査」

 私立探偵・猿田に呼ばれて、彼の事務所を訪れた松浪ひろ子は、あるクライアントの息子に関する奇妙な調査の手伝いを依頼された。
 それは中学三年の息子・静一が、ゲイであるかどうかを調べるオトリ調査だった。
 女性カメラマンを装って静一に接触したひろ子は、巧みな誘惑によって彼をラブホテルに誘うことに成功した。
「そう、二度、したのね」
「正確に言えば三度です」
 息子がゲイではないことを確認したクライアントは、さらに奇妙な調査をひろ子に依頼する。
 今度は息子がマゾヒストかどうかを調べてほしいというのだ。

 個人のプライバシーを調査する私立探偵という職業は、それだけで好奇心をそそられる題材だが、今回は御馴染みの猿田探偵に美人助手が登場し、活躍する。
 直接的なセックス描写がないにもかかわらず、会話とシチュエーションによって想像力を刺激する手法が冴えた一篇。
 クライアントの調査依頼に二段構え三段構えの思惑があり、読者は美人助手とともにその倒錯の世界へとどんどん引き込まれていく。
 キーワードは顔面騎乗。
 あ、あ、それ以上は言えないわ。

「復讐するは指にあり」

『ブルゴン商事』の営業マン・研介は、携帯電話の出会い系サイト『通勤快楽パラダイス』で知り合った「ぬれ」という女性と痴漢プレイを楽しむために、満員の通勤電車に乗り込んだ。
《あとはおまかせしますから、好きにしてください》
「ぬれ」のメッセージを受けてスカートに手を伸ばした研介は、彼女がスカートの下にガーターストッキングをはいていることを知る。
 そして彼の指が「ぬれ」のパンティに触れた。
「ぬれ」という名前通り、そこはねっとりと濡れそぼっていた。
 そして……。

 

 常に新しいメディアを題材にしながら、新たな官能世界を切り開く館ワールド、今回は携帯ナンパと痴漢プレイに材をとり、通勤電車という「走る密室」内でのスリリングな快感を描き出す。
 身体を密着させながら携帯メールで会話するというシチュエーションも面白いが、後半に明かされる「ぬれ」の痴漢体験も想像力を刺激させられる。
 この作品は長篇『美肉狩り』の「第5章 羞恥露出サイト」及び「第6章 美人司書の指姦願望」「第7章 濃厚エキスの残滓」に組み込まれ、さらに濃厚な描写を楽しむことが出来る。「ぬれ」ファンは必読!
 ちなみに『美肉狩り』によると、「ぬれ」の本来のニックネームは「ぬれぱんちゅ」とのこと。

「素足にハイヒール」

「ほう……フェラガモですね」
 女流漫画家・榎本多佳子が、担当編集者に紹介された出版社の取締役・井出は、彼女を見るなり、まずその靴に注目した。
 井出はハイヒールの似合う女性に特別の嗜好を持っているらしい。
 数日後、多佳子のもとに井出からの贈り物が届いた。
 高価な舶来のハイヒール。
 そして《素足にハイヒール》と題された原稿……。
 それはハイヒールを履いた女性に魅せられた男の、告白の手記だった。

 

 フェティシズムは館ワールドにおける最も重要なモチーフのひとつだが、本作はハイヒールを履いた女性への偏愛に貫かれたフェティシズム小説の傑作である。
 手記という形で口では言えない欲望が語られ、それが他者に読まれることによって間接的ではあるがそれゆえに想像力を刺激し、エロティックな関係性が濃厚になるという図式は、読者そのものをもその手記の読み手として作品世界に引き込む効果的な手法であり、作者が得意とする趣向でもある。そしてそれは、他人の日記を覗き見るような奇妙な錯覚を与え、より淫靡な雰囲気を漂わせることに成功している。
 そう、読者もまた共犯者なのだ。
 心地よく秘密めいた快楽を共有する者として……。

「妻の愛人」

 妻・由香利の行動に不審を抱いた緒方一郎は、探偵事務所に調査を依頼した。
 判明した妻の浮気相手は、平井菜穂子という魅力的な女性だった。
 直接相手と会って、ふたりの経緯を問いただした一郎は、菜穂子から意外な提案を受けることになる。
「だったら、私たちの不安定な三角関係を、もっと安定したものにさせましょうか」
「どういうことです?」
「あなたと私が寝るんです」

 妻の愛人が実は女性だったという展開は、今や現実世界でも決して珍しいことではないかもしれないが、その相手の女性が魅力的で、新たな三角関係、じゃなくって三位一体関係に発展していくところがこの作品の面白いところ。
 嫉妬は恋のスパイスなどと言うけれど、嫉妬を越えてつながりあう三人の姿には、三昧境のような趣きさえある。
 瑣末なことだけど、一郎が調査を依頼した探偵って、もしかしたら猿田探偵?
「奇妙な調査」が同じ本に収録されているのは偶然かもしれないけれど、こういう想像をして楽しめるのも、館ワールドの楽しいところ、だよね。

「姉の愛人」

 裕一が姉・眉美の姿を見かけたのは、シティホテル「メトロポリス・センチュリー」のロビーだった。
 彼女は白い歯を見せて笑っていた。ドキッとさせられるほど、なまめかしい笑顔だった。
 相手の男は、裕一がよく知っている人物だった。
 その夜、姉から電話がかかった。
「今日は妙な場所で会っちゃったわね」
 真夜中、電話で互いの性生活を告白しあった姉と弟は、やがてテレフォンセックスへと発展していく。
 そして数日後、叔父の蒼次郎から電話がかかってきた。

 

 シティホテルのロビーでの実の姉との意外な出会いを発端として、近親相姦の連鎖が意外な方向に展開する作品。
 前半の、姉弟によるテレフォンセックスという趣向もそそられるが、後半で描かれる仕掛けが秀逸。
 どんな仕掛けかは、読んでのお楽しみ!
「妻の愛人」と併せて読むと、タイトルの類似のみならず、同じ名前のホテルが登場することもありグランドホテル形式のような楽しさがある。

「春愁エロティカ」

(こうやって待ち合わせるのも、今日が最後か……)
 交換留学で日本を去る美しく魅力的な従姉・ゆかりとの最後のデイトに、やや感傷的な気分になる達哉だった。
 ゆかりの運転でときわ市郊外のモーテルに入った達哉は、ランジェリー姿の従姉に首輪をかけ、縄で縛り、ポラロイドカメラでその淫らな姿を撮影し、鞭で打った。それらの行為は、ゆかりが巧みな誘惑によって達哉に教え込んだものだった。
(このひとは、とてつもなく深い沼のようだからだ。ぼくのすべてを呑み込んで、それでもなお、帰る時は何もなかったような顔になってしまう。深い沼に石を投げても波紋はすぐ消えるように、ぼくの痕跡はどこにも残らない……)
 そんな従姉とも、もう逢えないくなると思うと、辛くなる。
 だがゆかりは、意外なことを口にした。
「えりなをね、キミにあげる」
 えりなとは、まだ高校生の、ゆかりの妹だった。
 

 従姉というのは、実の姉とは違った微妙な距離関係を感じさせる。
 法的には婚姻が認められているが、明かに血縁であるからだ。
 そんな微妙な関係性が別れの前の最後の逢瀬というシチュエーションと相俟って、瑞々しい情感をたたえた作品。
 そう、これは青春小説でもあるのだ。
 中盤に挿入される回想シーン、そして妹を奴隷に仕立てるための仕掛けにも工夫が凝らされていて、まるで短篇映画を観ているような作品である。

  「おうー……!」
 セーラー服を乱した緊縛少女がまた全身をうち震わせて苦悶する。
「苦しめ。悶えろ。これが罰だ。おまえが生きて、おれの傍らにいるという罪に対する罰なんだ!」
 少年は叫び、鞭で何度もうち据える。
「もっとぶって!」
 幼い時からの願望を満たされてゆく少女は、悲鳴をあげ嗚咽しながらも、すすんで臀部を持ちあげて次の鞭を待つ。

 ね、眼に浮かぶでしょ?

                           詩織

《作者より》

ぼくにとってグリーンドア社は87年の『凌姦』以来、つきあいのあった出版社ですが、2002年春、親会社である勁文社の倒産により、グリーンドア文庫は消滅しました。 本書は、そのグリーンドア文庫からセレクトされた自選傑作短編に、新作短編3編をフュージョンさせたハイブリッド短編集です。(なんのことだか(笑))

巻頭短編『秘術・不倫指南』は、中国人超能力女性、李明琴(り・めいちん)シリーズの一つです。
「黙って座ればピタリと当たる」「黙ってさすればピタリと治る」という超能力を持つ若い女性が、性的能力に自信を喪失しているゴリラ男に迫られる人妻に知恵を授けます。
ここで描かれる「超能力の中継」(超能力者>普通人>普通人という経過で超能力が伝わる)という現象は、ぼくがこの目で見た現象です。ちなみにぼくは超能力はあまり信じていないのですが、この李明琴には実在のモデル(中国人気功師)がいて、このシリーズで描かれるような現象はすべて目撃した事実に基づいています。
自分が言うのも何ですが、李明琴シリーズは面白いです。(笑)

《初出情報》

『秘術・不倫指南』…………「特選小説」2002年7月号
『奇妙な調査』………………「特選小説」2002年4月号
『復讐するは指にあり』……「問題小説」2002年6月号
              (原題『指』)
『素足にハイヒール』………「月刊小説」1993年5月号
           短編集『姉・愛人契約』(059)に収録
『妻の愛人』…………………「小説CLUB」1994年7月号
           短編集『女社長・震える柔肌』(066)に収録
『姉の愛人』…………………「小説CLUB」1993年3月号
           短編集『姉・愛人契約』(059)に収録
『春愁エロティカ』…………「小説CLUB」1995年4月号
           短編集『牝猫・被虐のエクスタシー』(073)に収録

《書誌情報》

本書は桃園書房より桃園文庫の一冊(た03-01)として文庫判型で刊行された。
デジタルテキストは発売されていない。





ISBN4-8078-0459-6
2002年9月15日=第一刷発行
発行=桃園書房
定価=571円(税込)+税

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