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イラストレーション:佐藤与志郎


若妻と妹と少年

〜悦虐の拷問室〜

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悦也は肩越しに手を伸ばし、
ずぽッと引き抜いたバイブを氷斗志の手に握らせた。
氷斗志はそれを両手で掴み、注意深く秘裂に押し当て、
ぐいと力を入れた。
診察台に固定された美和の下半身がぐぐっと浮き上がった。
「あう、う、感じるう!」
美和の口から喜悦の声が迸った。
「なるほど、サブマスターにやられるほうがずっと感じるのか」
氷斗志が教えられたとおり片手でクリトリスをこね、バイブを膣前庭に
突き上げるようにすると、美和はたまらずに全身をうち震わせ、
快感の爆発を味わって死んだようになった。
「あうう、あう、イク、イキます!」

《読者による解説と感想》

 少年は林の中を歩いていた。  そこは身捨てられたゴーストタウン的な趣きを漂わせる別荘地の中だった。  さびれた別荘を見回りながら「将来は建築家になって、こういう別荘を建てて みたいものだ」と思う少年だった。  ある霧の夜、「キノコの家」とな名づけた奇怪な外観の別荘に人がいるのを発 見して、好奇心にかられた少年が窓の中に見たものは、全裸でたわむれる二人の 女性の姿だった。  その夜「キノコの家」の持ち主・左京悦也は、サディストの集い『スカラベ倶 楽部』で、二人の緊縛レズビアンの調教に参加していた。  美和と梨絵、向かいあわせに縛られたこの二人は、夫婦だった。女装した夫と M女の妻は、互いがいたぶられる姿を見て興奮するという屈折した快感の持ち主 だった。  過激な電流責めの拷問を受けながら、二人の過去と夫婦のなれそめを告白する 美和と梨絵・・・。  美和を気に入った悦也は、その身柄を引き取って、自らが設計した秘密の別荘 で彼女を調教することを約束する。それが妻である美和の願いであり、奇妙な夫 婦の愛だった。  悦也は美和を「キノコの家」へ連れて行く。そこには基礎部分を利用して作っ て理想の牢獄がしつらえてあったのだ。  そんな悦也に、『スカラベ倶楽部』の正会員である提督と名乗る男から指令が 下った。  自分が調教した女性を、生け贄として捧げよ!  それは難問だった。これにクリアしなければ正会員にはなれない。  一方、ふたたび「キノコの家」を覗きにやって来た少年・火斗志は、悦也に見 つかり、先日目撃した光景を自白させられる。  悦也の脳裡に、ある計画が浮かんだ・・・。     ★  館淳一の作品には、しばしば秘密の部屋や独特な建造物が登場することがある。 本作に登場する「キノコの家」など、その典型的な一例といえるだろう。  それらの建造物を描写する作者の筆使いには、女性の下着に対するのと同様の フェティッシュな愛情が感じられる。  それは、別荘管理人などの経歴がもたらすものでもあろうが、案外この作品の 副主人公ともいうべき氷斗志少年のように、建築家を志望した一時期があったの かもしれない。  そう、「館」というペンネームは伊達じゃない!  もうひとつ、館作品では、少年時代の強烈な体験が回想シーンとして挿入され るケースが多いが、本作では作品のリアルタイムでの少年が登場し、サブマスタ ーとして調教に参加する経緯が描かれる。ここにはある種、ビルドゥングス・ロ マンとしての味わいがある。 『スカラベ倶楽部』の実態も明かされていないし、主人公の計画も、まだ端緒に ついたばかりだ。  続篇、姉妹篇を期待させる展開である。  あとね、個人的には美和さんと梨絵さんのカップルが好き!  拷問される妻を見ながら、いとしさに震える女装した夫・・・。  これはきっと、新しい夫婦愛のかたちに違いないわ!  淳一サマ、ぜひぜひ続篇を書いてね!  詩織(MLメンバー)

《作者より》

ジャンルとしては「別荘モノ」である。 作者がかつて、長野県の避暑地で別荘管理人として働いていたことは、著作デー タの『姦られる』『剥かれる』あたりで説明されているので、古くからぼくの作 品に接している読者には「また、別荘ものか」とため息をつかれるかもしれない。 (笑) たった四年ほどであったけれど、別荘地のなかで多くの別荘を管理したことで得 た経験は、後にSM小説を書くようになってから非常に役に立った。 別荘管理人は持ち主の不在時も別荘の中に入ることが許されている。もちろん苛 酷な自然のなかに放置されている建物であるから、別荘というのは常に点検し維 持管理、補修に力を注がなければ、たちまちにして老朽し腐朽てしまう。 どんなに金をかけて作られた豪邸でも、管理が行き届かない、持ち主に愛されて いない別荘は、中に入るまでもなく生気を失ない、暗くどんよりとした雰囲気を 漂わせているのが感じられる。 さほど裕福ではない人が、なけなしの金をはたいて作り上げた粗末な小屋でも、 よく手入れをし、頻繁に訪れてそこで充実した時を過ごしていれば、その別荘は いきいきとして活気を帯びて、近づいただけで楽しい気分になるものだ。 「家は生きている。あたかもペットのように」 ――それが多くの別荘(実は千軒以上に達するのだが)を管理し、その所有者と つきあってきた作者が得た発見だ。 管理人は別荘が建つ前の敷地の時から、その持ち主や家族とつきあいだすことが 多い。暮し始めてからは、管理人は彼らがその別荘でどのように生活しているの か、まるで透明な自縛霊のように観察し、情報を分析している。 いや、決して覗き見するわけではない。誤解しないで欲しい。(笑) 彼らが帰ったあとの別荘の中に入ると、建物が勝手にぼくに語ってくれるのだ。 あらいざらい、性生活の細部にいたるまでを。 管理人が、もし、建物の語る言葉を解することができさえすれば、そこに住み暮 した人々の幸、不幸までを知ることも容易なことだ。 その体験は、東京に帰ってからぼくの建物を見る目を変えさせてくれた。玄関の たたずまい、庭の手入れ具合、ベランダに干された洗濯物の種類……。ぼくはそ れらのものを見ただけで、その家が幸福なのか不幸なのか、瞬時にして分かる能 力を得てしまった。(笑) この作品には二つの建物が登場する。 都心・赤坂の超高級住宅地に建つ特殊なマンション『サイレントハウス』。 霧深い高原の別荘地“ミスティヴァレー”の傾斜地に建つ、少年が名づけた「キ ノコの家」こと左京邸。 その二つの建物を舞台にサディストとマゾヒスト、老人と少年、レズビアンの熟 女や若妻らの人生が交錯する。 彼らを活躍させるためにそういう建物を用意したのか、建物を主人公にしたSM 物語を書こうとしたのか、作者は書き終えてもまだ分からない。(笑) 読者が、建物と物語の関係にふと思いをいたしてくれて、読み終えたあと、何か を得たような気になってくれたら嬉しい。 「それはいいが、SMのほうはどうなんだ。興奮するか?」 ええ、それはもう、保証します。(笑)



ISBN4-576-00747-5
2001年7月10日=第一刷発行
発行=マドンナ社
発売=株式会社二見書房
定価=600円+税

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