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カバーイラスト 新井田孝
カバーデザイン 吉原夢良 


禁姉と弟・相姦の血族

85
収録作品
『禁姉と弟・相姦の血族』(中編)
『姉弟・被虐の罠』(短編)
『緊縛女王と倒錯魔王』(短編)


《読者からの解説と感想》

 短めの長篇と短篇二篇が収録された本書は、「姉と弟」という館ワールドで繰り返し描かれる禁断の関係を扱った三つの作品を楽しむことが出来る。同じテーマを扱いながらも、それぞれに趣向が凝らされ、異なった音色が響きあい、読者を姉弟相姦の甘くせつない迷宮へといざなう。

「禁姉と弟・相姦の血族」  消息不明の姉から電話があったその日、二人組の男が佐斗志の工房を訪れた。
 二年振りに帰って来た姉の智子は、犯罪集団にかかわり、追われる身だった。
 案の定、先刻の男たちは智子が帰って来るのを見張っていた。
 人里離れた海岸の一軒屋で、夜を徹した尋問がはじまる。
 姉のセーラー服を着せられた佐斗志は、スカートをめくられ、そこに姉の唇が……。
  「ああ、いやだ、姉さん……おお、う」

 ほぼ一昼夜の出来ごとのうちに、館ワールドのエッセンスが凝縮された作品。
 ハードでバイオレンスな展開は、初期の短篇群を彷彿とさせる。
 そして何よりも魅力的なのは、姉と弟によるレズ・プレイという、本来ならありえないはずの光景が、文章のマジックによってくりひろげられるところにある。
 主人公の青年が、流木を彫刻する孤独なアーティストであるという設定が、過激な物語にそこはかとない詩情を与えている。
 物語の舞台は、館作品では御馴染みの汐見市の外れの海岸。
 そういえば『美少女と魔少年』の舞台もこのあたりだったなと思いいたる時、さびしい海辺の風景が浮かびあがり、この物語が世界の果てで夢見られた「少年の夢」ではなかったのかと、思えてくる。
 夢でもいい、終わらない夢ならば……。
 そう思えてならない。

「姉弟・被虐の罠」  帰省した姉・靖美に、こっそり隠していた雑誌『SMプレディター』を発見されてしまった悦史は、恥ずかしい性癖を姉に告白させられてしまう。
 姉の下着を纏い、女性として縛られたいという願望……。
 それを聞いた姉の言葉は、意外なものだった。
「実はねぇ、うふッ、私も同じなんだ。縛られるのが好きなの……」

 一冊の雑誌が、姉弟の秘められた欲望を露わにし、新たな世界を開いていく。
 その雑誌『SMプレディター』は、近年の館作品にもしばしば登場する有名雑誌(?)。
 汐見市や夢見山市などの地名、『エメラルダス・アンバサダー』やスーキハウス『田ノ倉』といった店名、そしてスカラベ倶楽部のような秘密クラブの名称など、固有名詞が複数の作品で共有されるのも、館作品の特徴である。
 それはあたかもSM版クトゥルー神話とでも形容したくなるほどに、読者に「ある世界」の実在を疑似体験させるものとなる。「館ワールド」と呼ばれる所以でもあるのだ。
 本作は「魔悦の姉弟 緊縛遊戯」(『肉宴』収録)と同様の趣向だが、後半部分の展開が圧倒的に違う。
 同じ夢を見ても、いつも結末が同じとは限らない。
 だけどどんな夢も、館ワールドではステキな結末が待っている。
 まるで名人の落語を聞いているようだと言っては、作者に失礼だろうか?

「緊縛女王と倒錯魔王」 「キミの二十二歳の誕生日、もうすぐよね? 少し早いけどお祝いしてあげる」
 姉・まき子の言葉に、シティホテル『エメラルダス・アンバサダー』に赴いたレオの前に現われたのは、悩ましいランジェリーを纏った姉自身だった。
「さっ、縛って……」
 レオが姉の秘めたる願望を知ったのは、この春先のことだった。
 弟の突然の帰宅に狼狽した姉は、自分で自分を縛ることによって、わずかに欲望を満たしていたことを告白する。
 そして……。

 

 洒落たバースデイ・ストーリー。
 恥ずかしい性癖を発見されるのが姉の方という構図は、「姉弟・被虐の罠」とは逆のベクトルになっている。
 誰でも人に言えない嗜好のひとつやふたつは持っているに違いない。それを発見された時の恥ずかしさはまた、格別である。そしてその相手が、肉親で、魅力的な異性とあればなおさらだ。
 直接的なセックス描写よりも、こうしたシチュエーションや描写の方が、よりエロティックな想像力をかきたてることは言うまでもない。
 オルガスムス寸前の、もどかしく狂おしい快感がいつまでも持続するような……。
 そう、館淳一の作品は「麻薬」なのだ。

                詩織

《初出情報》

『禁姉と弟・相姦の血族』……「特選小説」1996年11月号
                (原題『相姦ホットゾーン』に100枚を加筆)

『姉弟・被虐の罠』……………「小説CLUBロマン」1996年11月号
                (原題『姉弟・緊縛講座』を加筆)

『緊縛女王と倒錯魔王』………「別冊小説宝石」1995年12月号
                (原題『姉はベティ・ペイジ』を加筆)

《書誌情報》

本書はフランス書院よりフランス書院文庫シリーズ(通算ナンバー0726)として文庫判型で刊行された。
デジタルテキストはフランス書院ダウンロードサイトから購読できる。




ISBN4-8296-0726-2
1996年12月10日=第一刷発行
発行=フランス書院
定価=500円(税込み)

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