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カバーイラスト 村山潤一

姉 愛人契約

059

《収録作品》

『見えない強姦者』
『姉の愛人』
『素足にハイヒール』
『О嬢のように』


《読者からの解説&感想》

「見えない強姦者」

(なんか、ヘンだ……)
 留守中の部屋に誰かが侵入しているのではないかと不審を抱いた加奈子は、ある日、出社すると見せかけて自室に戻り、ベッドの下に隠れて、侵入者を待った。
 意外な場所から入って来た侵入者は、やはり同じアパートの住人だった。
 彼は加奈子が秘密にしているワープロ日記を盗み読み、オナニーをしていたのだ。
 加奈子の頬に薄く微笑が浮かんだ。
 日記に強姦願望をほのめかす記述をして、侵入者の反応を待つのだ。
 その夜、セクシーなランジェリーに身を包み、ベッドに入った加奈子。
 そして侵入者がやって来る……。

 

 部屋の微妙な雰囲気の違いから侵入者を感知する導入部にはじまり、秘密のワープロ日記、意外な侵入方法と、サスペンスの持続が素晴らしい。
 ヒロインがパソコンではなくワープロを使っているところが、時代を感じさせるが、そこがまた味わい深いところでもある。テクノロジーの進歩と欲望の進化がシンクロする時代のドキュメントであり、そういった側面から館ワールドを読み解くのも一興だろう。
 作中でもそのタイトルが示されるように、本作は館版「屋根裏の散歩者」といった趣きがあり、この趣向はのちに傑作『女子大生寮強姦魔』へと発展していくことになる。
 ラストが館作品にしては珍しい展開になっているところも注目!

「姉の愛人」

 裕一が姉・眉美の姿を見かけたのは、シティホテル「メトロポリス・センチュリー」のロビーだった。
 彼女は白い歯を見せて笑っていた。ドキッとさせられるほど、なまめかしい笑顔だった。
 相手の男は、裕一がよく知っている人物だった。
 その夜、姉から電話がかかった。
「今日は妙な場所で会っちゃったわね」
 真夜中、電話で互いの性生活を告白しあった姉と弟は、やがてテレフォンセックスへと発展していく。
 そして数日後、叔父の蒼次郎から電話がかかってきた。

 

 シティホテルのロビーでの実の姉との意外な出会いを発端として、近親相姦の連鎖が意外な方向に展開する作品。
 前半の、姉弟によるテレフォンセックスという趣向もそそられるが、後半で描かれる仕掛けが秀逸。
 徐々にエスカレートする趣向がアクロバティックなラストへと昇りつめていく過程は、もう、窒息しそう!

「素足にハイヒール」

「ほう……フェラガモですね」
 女流漫画家・榎本多佳子が、担当編集者に紹介された出版社の取締役・井出は、彼女を見るなり、まずその靴に注目した。
 井出はハイヒールの似合う女性に特別の嗜好を持っているらしい。
 数日後、多佳子のもとに井出からの贈り物が届いた。
 高価な舶来のハイヒール。
 そして《素足にハイヒール》と題された原稿……。
 それはハイヒールを履いた女性に魅せられた男の、告白の手記だった。

 

 フェティシズムは館ワールドにおける最も重要なモチーフのひとつだが、本作はハイヒールを履いた女性への偏愛に貫かれたフェティシズム小説の傑作である。
 手記という形で口では言えない欲望が語られ、それが他者に読まれることによって間接的ではあるがそれゆえに想像力を刺激し、エロティックな関係性が濃厚になるという図式は、読者そのものをもその手記の読み手として作品世界に引き込む効果的な手法であり、作者が得意とする趣向でもある。そしてそれは、他人の日記を覗き見るような奇妙な錯覚を与え、より淫靡な雰囲気を漂わせることに成功している。
 そう、読者もまた共犯者なのだ。
 心地よく秘密めいた快楽を共有する者として……。

「O嬢のように」

 兄夫婦の家に下宿していた弟・裕樹が、兄嫁とケンカをして家出をした。
 翌日、藍子の勤務先に当の裕樹から電話が入った。彼女の部屋に泊めてほしいという。
 弟の声を聴くだけで乳首が疼く藍子だった。
 その日、仕事を終えた藍子は、まっすぐアパートへは帰らず、とあるマンションの一室へと向かった。そこは、社の同僚ふみ恵、そして上司である柿沼専務とが、特殊な行為をするための秘密の部屋だった。
「今日は早めに帰らせてほしいの。弟が私の部屋に泊まりに来てるから」
「いいわよ。専務をうんと喜ばせてくれたらね」

 短いページ数の中に、さまざまな趣向がちりばめられた作品。
 特に回想シーンで描かれる、社員旅行での野球拳のくだりが楽しい。
 シーメールのビデオを観る場面は、ディープな館ファンならその後の展開を想像してしまうに違いない。
 ガーターストッキングへの嗜好は、館作品では御馴染みのものだが、ガーターベルトではなく、ガーターそのものが好きという登場人物は珍しい。
 それぞれのモチーフは完全に展開することなく、あるものはその兆しだけが示されるのみだが、それがかえって想像力を刺激し、妄想を加速させる。
 官能小説とは「妄想力の文学」なのだ。
 タイトルの由来は作中でも紹介されているように、SM文学の古典的名作であるポーリーヌ・レアージュ著『O嬢の物語』で、澁澤龍彦の翻訳が有名だが、千草忠夫による翻訳もある。この作品が館ワールド形成の大きな礎になったことは間違いないだろう。
「見えない強姦者」で言及されている江戸川乱歩の「屋根裏の散歩者」とならんで、館淳一ファン必読! だね。

                          詩織

《作者より》

自分で言うのもなんですが(笑)、この短編集に収録された短編は、自信作ぞろいです。
「見えない強姦者」は、ぼくのお得意の「待受けレイプ」です。レイプ犯のほうを被害者が誘導してゆく。
犯人は、強姦願望の女性が求める「理想的なレイプ」をやらされてしまう。操られた強姦魔。(^_^;)
同時に書きたかったのは、窃視者が他者の私室に入ることの、えもいわれぬ胸のときめきですね。下着を盗むこともそうですが、侵入した時、すでにレイプは始まっているのです。それを書きたかったということもあります。
末尾は作者としては少し後悔しているところがあります。映像美を追及した結果だと思ってください。(笑)
「姉の愛人」は、姉弟をいやおうなしに近親相姦に導く、悪い叔父さんが主役です。悪役の魅力を鑑賞してください。(笑)
この短編は、長編『兄と妹・蜜縄奴隷』の核となっています。
「素足にハイヒール」は、知りあいの女流マンガ家さんがキャラクター創成上のモデルです。こういう性癖だというわけではありませんが。(笑)  ハイヒールを履いたすてきな脚を見るたび「こういう脚に蹴飛ばされたい」と思うかたには満足いただけるのではないでしょうか。
ただし、時代の流れというのは恐ろしいもので、執筆当時は生足にハイヒールを履く女性はまだ少数派だったのに、脱パンストの流れのせいで、昨今は珍しくなくなりました。タイトルのインパクトも薄れてしまいました。
「О嬢のように」は、兄と弟、双方に愛される女性のお話し。いや、弟も兄と姉、双方に愛される。ややこやしいきょうだいのお話です。(笑)
このきょうだい纏めて面倒みようという中年S男が現れてきて、長編の『美姉と美弟・肛姦契約』が成立しました。

《初出情報》

『見えない強姦者』……『月刊小説』93年2月号
『姉の愛人』…………『小説CLUB』92年5月号
『素足にハイヒール』……『月刊小説』93年5月号
『О嬢のように』………『月刊小説』92年8月号

《書誌情報》

本書はグリーンドア社よりグリーンドア文庫の一冊(通算ナンバー260)として文庫判型で刊行された。
デジタルテキストは発売されていない。





ISBN4-7669-1852-5
1993年8月30日=第一刷発行
発行所=グリーンドア社
発売=勁文社 定価500円(本体485円)

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