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カバーイラスト 新井田孝
カバーデザイン 吉原夢良 


継母・背徳の部屋

19

「お父さんには内緒よ」
従妹の豊かな肉丘の狭間から漂う
魔性の香りが、亜紀彦を誘う……

甘く切ない女の吐息、
弾力のある柔肌の感触、
温かい蜜壷の締めつけ――

初めて知った素晴らしい性の快楽に、
若い牡の本能は狂い立ち、
やがて神々しいまでに美しく優しい、
継母・志津絵への貞操へとのびていく!


《読者による解説&感想》

 黒島亜紀彦は少年の日、妖しく悩ましい夢を見た。
 洞窟の中で、魅力的な全裸の女性と出会い、その肉体を抱きしめた時、
「おかあさぁん……!」
 口にしたのは、その言葉だった。生まれてはじめての夢精だった。
 小学六年生の頃のことだ。
 彼の母は、物心もつかぬ頃に亡くなっていた。
 従姉・悦子の手ほどきで性の快楽の世界に足を踏み入れた亜紀彦は、父親の再婚相 手・志津絵を紹介された時、彼女の面影が夢で見た女性にそっくりなことに愕然とす る。
 新たに義妹となったエリカも魅力的な少女だった。
 ただ、兄の由紀彦だけが、この再婚にあからさまな嫌悪感を抱いていた。
 ある日、エリカが志津絵にお仕置きされているところを覗き見た亜紀彦は、射精す るところを見せるかわりに、美しい妹の尻をスパンキングする。
 幼い兄妹の性的遊戯は、次第にエスカレートして行った。
 だがそんな関係も、長男・由紀彦が帰国した時点で中断を余儀なくされてしまっ た。
 事故が原因で、スポーツ選手としての将来を断たれた由紀彦は、すでに亜紀彦とエ リカの秘密の遊びに気づいていた。
 さらにこの屈折した兄は、継母・志津絵の重大な秘密をも握っているらしい。
 実の兄に犯される亜紀彦……。
 黒島家に過酷な運命の嵐が吹き荒れる!

「お母さん、黒い下着を着けてくれない……?」
 義理の息子が声をかけた。
「黒い下着?」
「うん。黒いパンティとガーターベルト。黒いストッキング」
「まあ……」
 年増美女は婉然と微笑んだ。
「そういうスタイルが好きなの?」
「うん」
「分かったわ。着てあげる」
                    (第四章 肉契の夜)

 これは夢物語である。
 冒頭に描かれる夢の描写が奇妙ななつかしさを醸し出し、洞窟=子宮のイメージは 家という閉ざされた空間に敷衍され、血のつながった他者、血のつながらない肉親が 入り乱れた相姦関係のるつぼと化して行くのだが、ミステリの構造を巧みに配した本 作は、文字通り「どんでん返し」のハッピーエンドへとなだれ込んで行く。
 ハッピーエンド?
 そう、館作品は基本的にハッピーエンドで物語が締め括られる。だがそれは、通常 のハッピーエンドではない。性的タブーを超越し、時には倫理すら超越したところに 館ワールドのハッピーエンドは訪れる。そして読者は、かつて味わったことのない快 楽に震えつつ、自らを縛る「人間」という概念の息苦しさから解放され、感動すらお ぼえるのだ。
 そしてこれは、少年の性的遍歴を描くビルドゥングス・ロマンでもある。
 はじめての夢精からはじまり、従姉による射精指南、アナルセックス、義妹との禁 じられた遊び、スパンキング、窃視、下着へのフェティシズム……。趣向を凝らした 性の饗宴が、万華鏡のように展開されて行く。
 こうして少年は、性の迷宮の奥深くに足を踏み入れて行くのだが、経験を積めば積 むほど、どこか成長とは逆のベクトルへ上昇、あるいは下降して行く奇妙な感覚に襲 われることも確かだ。
 冒頭の夢の描写に端的に示される、幻の母へと向かう屈折した胎内回帰願望は、継 母という対象を得て、家族という幻想を打ち砕く、未曾有の人間関係へと発展して行 くからだ。
 少年はある日、大人へと向かう階段とは別の階段に足をかけたのかも知れない。
 現実では味わえないファンタスティックな世界を、言葉と、そこから溢れるイマジ ネーションとで紡ぎ出すのが小説の醍醐味ならば、館淳一こそ生粋の小説家である。

 詩織(MLメンバー)

《作者から》

 そもそもは、江戸川乱歩に魅せられて官能小説の世界へと足を踏み入れたようなぼくですが、官能の暗い輝きばかりではなく、謎の提示、それが解き明かされてゆくときの快感、という、ミステリ小説、推理小説(子供の頃は探偵小説と呼ばれていましたが)のというものにも魅せられていたのです。
 本格的なミステリとなるとトリックの創出から巧みな伏線を張ったりする結構(組み立て)がなかなか大変で、怠け者のぼくには、最初からミステリ作家になろうなどという気はなかったのですが、謎を解いてゆく、ということであれば官能小説でも可能ではないか、と思うようになりました。

 それまでの短編を読まれたかたは、常に読者を裏切る形で結末が訪れることにお気づきになっていると思います。
「こうしてこうなればこう終わると思うでしょう。ところが違うんですよ。そう簡単には終わりません」
そうやって読者を騙す、ひきずり回すのがミステリ作家の楽しみだとすれば、ぼくもやはりその気質を抱えています。読者を興奮させるよりもそちらのほうに走りがちなところがあるかもしれない。(笑)
 ならば、ぼくの作品はミステリと官能の面白さを組み合わせたものにしよう――そう考えるようになったのは、フランス書院文庫から長編を書きだすようになってからのことです。

 処女長編『姉弟日記』では、後半になって関係者が次々に何者かに殺されてゆく――という部分から、にわかにハードボイルド・ミステリ仕立てになってゆきますが、これは少しあわただしかった。(笑)
 次作『養女』では、まず一つの、事故に見せかけた殺人が起きます。それ自体はミステリでもなんでもありません。ですが最後になって、それは完全な殺人ではなかったことが明らかになります。本当の殺人は事故のあとに行われたのです。それが、たった一つの証拠で明らかになる。
 最後に、ある謎が解き明かされることによって、登場人物の本当の姿、関係が明らかになって終わる――そういう意味で『養女』は特に気にいってるのですが、この部分が評価されたことはかつてありません。そもそもSMポルノというジャンルにミステリの要素を期待する人も少ないでしょうから当然といえば当然ですが。

 ですからミステリ性をもたせるということは、読者にとってさほど意味はなく、単に作家のひとりよがり的趣味的な楽しみに堕しているわけで、編集者にとっては悩みの部分であるかもしれんせん。(笑)
 ともあれフランス書院の第三作である本書では、そのミステリ性の部分をさらに強めた内容になっています。

 主人公の父親である黒島慎之介は、かつての剣豪スター、今は渋い二枚目俳優としてCMにも登場する人気のテレビ俳優。
 その彼は早くに妻を亡くして放縦な独身生活を謳歌していたのに、評判を守るためにやむを得ず、長らく愛人としていたブティックの女主人を正式な妻として我が家に迎えることになります。
 その時からガタガタと彼の家庭、彼の作り上げてきた世界が崩壊してゆきます。慎之介も(たぶん読者も)その理由は単なる不運によるものだと思っていますが、実はそうではなく、巧妙に仕組まれた陰謀が背後にはあったのです。

 官能部分には不満があっても、なんとなく最後まで読み終えてしまう――という館ワールドの秘密は、多分、ミステリ仕立ての部分によるものだと思います。そういう方向性が確立されたのがこの作品でしょう。

であったとしても、
年上の女性による童貞少年の性教育。
他者の性的行為を覗き見することのときめき。興奮。
スパンキングされる熟女、少女。 そして秘密の「地下室」――。
館ワールドの要素はきっちり盛り込まれています。楽しんでください。

なお、冒頭の夢は、作者自身が少年時代、実際に見た夢です。夢精はしませんでしたが、目が覚めて、かなり当惑したものです。
その日からしばらく、母親の顔をまとも見られませんでしたね。(笑)

《書誌情報》

本書はフランス書院よりフランス書院文庫シリーズ(通算ナンバー0125)として文庫判型で刊行されました。
デジタルテキストはありません。




ISBN4-8296-0125-6 C0193
1987(昭和62)年5月10日=第一刷発行
発行=フランス書院
定価=400円

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