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カバーイラスト 井川泰年
カバーデザイン 田中保次

剥かれる

《収録作品》

『剥かれる』
『ミッドナイト・ブルー』
『悪魔が嗤う夕暮』
『呪縛の構図』
『生贄の血は淫ら色』
『謝肉祭の夜』

《さわり》

自分の上に覆いかぶさるようにされた女体を目のあたりにして、 次郎は欲情に目をギラつかせ、両の手にあまるような双球の肉塊を ぐりぐり揉みしだき、こねまわす。 「む、むう……」 抵抗しようにも、背後から強い力で抱きすくめられ、 二の腕をがっしり押さえられた暁子は歯を食いしばり、 そのおぞましくも淫らな責め苦に呻き、あえいだ。 ごつい指の荒々しい刺激に、やや濃く色づいたバラ色の乳首が しだいに硬くとがりだす。 「おうおう、この乳首、立ってきたぜ」  まるで幼児のように目を輝かせて、横たわったままの嗜虐者は 傷の痛さも忘れたように上体を起こし、 その分厚い唇を、半球の頂点、イチゴの実のような突起に近づけた。 「ああ……」  ぬらっとした唇に敏感な尖りを吸われ、 女は白い喉をのけぞらせた……。             (巻頭作品『剥かれる』より)

《推薦の言葉》

全力疾走のバイオレンスランナーだ!    漫画家・いしかわじゅん 結局、密度なのだと思う。 ひとつの些細なテーマを見つけると、それを水増しし、引きのばし、 おまけに衣替えして何度も使ったりする有名作家が、ジヤンルを間わず多い中で 館淳一は思いつく限りのことを一本の中に全部ブチ込んでるように見える。 後先を考えずいつも全力投球をしてるように見えるのだ。勿論、計算はあると思 う。思うが、いつもそれは計画倒れに終って、気がついて見ると腕も折れよと9 回裏まで投げきってしまっているのではないか。それがサービス精神からなのか、 それとも根っからのスケベなのか、一度お会いして聞いてみたいような気もする。 多分この人は、本来は短距離走者向きの体質なのだ。短い距離をミッチリ走るの が好きなのだ。ところが、長距離を走っても、つい短距離風の走り方をしてしま って、本人は疲れるが観客は喜ぶと言う、ヤッカイな人に違いないのだ。 そういうヤッカイな人を、ばくは好きなのだ。

《作者より》

初期短編集三部作の第3弾です。発売は昭和57年7月。 収録作品はほとんど『別冊SMファン』に掲載されたものですね。 『剥かれる』は、不感症の女性が軽井沢の別荘で二人の脱獄囚に襲われ、 秘かに思慕の情を抱いていた甥が救出するというお話です。 館淳一の作品には「軽井沢の別荘モノ」というジャンルが多く見られますが、 (例『兄と妹・襲われた蜜獣』『避暑地の銃弾』など) これは作者がかの地で 別荘の管理人、土木作業員、ボーリング場従業員、観光ロッヂ従業員、清掃作業 員(ゴミ処理車運転手)……などの雑多な職業を転々としていた経歴があるから です。 裏から見た別荘地とそこに住む人々を描ける数少ない作家でしょう(笑)。 叔母さんを助ける甥ッ子は、地元の高校生。別荘族と自分たち地元少年との落差 に絶望感を抱いている彼は、崇敬する叔母を仲間の欲望の生贄として捧げます。 日本は富める者と貧しい者の落差が日常ではさほど感じられない国です。しかし 別荘地に行けば「自分は中流である」と思っている人々は痛烈な衝撃を受けるで しょう。まともな家を一生のうちに持てるか持てないかという庶民の暮らしとは かけ離れた生活がそこにはあります。 別荘管理人というのは透明人間のように彼らの生活を仔細に観察できるので―― というのは、常時、点検のために出入りしているからですが――ぼくは非常に多 くの有益な材料をこの頃の仕事を通じて仕入れることが出来ました。 あの高級別荘の持ち主たちも、そんな身近なところに窃視者がいたとは思ってい なかったでしょう。(笑) そうそう、別荘地の燃料店のアルバイトとしてプロパンガスの配達もやってまし たな。 15キロボンベは満タンで容器込み30キロあるのですが、それを2本、 両肩にかついで 急な坂道を駆けあがることができたのですよ、当時は。(笑) 『呪縛の構図』ではプロパ ンガスを用いた殺人装置が登場しますが、そ れはこの時に得た職務上の知識によるものです。といってもプロパンガスの比重 は空気よりも重いというだけのことですが。(笑) 燃料ガスというのは不思議なもので、高圧満タンだとあまり爆発の危険はありま せん。 危ないのは残量がほとんどないスカスカのボンベ。一番、爆発力のある 空気とガスの混合比率がそこらへんなのです。空の容器だと思って油断しないよ うに。(笑) 『悪魔が嗤う夕暮』は後の長編『姉弟日記』の原点になったものです。 身体障害者(車椅子や盲目の少年)が登場してサディストにこてんこてんにやら れてしまう――というアブナイ設定も館作品の特徴ですが、弱者がハンディキャ ップを乗り越えて 強者を倒すというところに、当時は凝っていたような気がし ます。 いしかわ・じゅん氏は担当編集者の知己ということで推薦文を書いていただきま した。それをきっかけとして親しくしていただき、今も交流は続いています。 彼は最近は官能小説の分野まで進出してきて、ちと脅威なのですが。(笑)

《書誌情報》

本書はサラ・ノベルズ新書版が廃刊になった後、同じタイトル同じ内容で、マ ドンナ社より刊行された文庫版です。異型版本といいます。(3参照、絶版) 本書のコンテンツは当ホームページよりダウンロードできます。


マドンナメイト文庫版
ISBN4-576-86042-9
昭和61年(1986年)5月10日初版発行
発行=マドンナ社 発売=二見書房
定価=400円
(現在は絶版)

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