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カバーイラスト 福田典高


淫れる

02

《収録作品》

『淫れる』
『悪魔の夜はむごく冷たく』
『黒い罠は砂にまみれて』
『凶獣は闇を撃つ』
『えり子・犯されたい』
『背徳の館』


「ひどい……!」
 はじめて侵入者のもくろみを知って、ベッドの上の絵里子が叫んだ。
その口のなかに引きさかれた春彦のブリーフが詰めこまれた。息子の体臭に絵里子はむせた。頬を割ってロープが噛まされる。
「やめてくれ。お願いだ……!」
 椅子を打ちゆすって哀願する美少午を冷ややかに見やり、暴走族のなかでももっとも凶暴な男と恐れられた男はゆっくりと服を脱いだ。
 獣のような濃い体臭が部屋に充満した。無数の修羅場をくぐり抜けた、男の勲章ともいうべき傷跡の数々を誇示するように、全裸になった竜介はベッドの上にあがった。
「坊や、目を間けていろよ。目を閉じるたびに、このナイフでおふくろのおっばいを突くぞ!」
                    (巻頭作品『淫れる』より)


《推薦の言葉》

激しく股間をアジれ!       鋼鉄の劇画家・ダーティ・松本

 エロスの作家とは股間への扇動家である。いかに読者をひきつけ、その肉体を熱くたぎらせ、爆発までもっていくかがその書き手の手腕だろう。正直いって、巷にあふれる生温い官能小説のたぐいで性的満足感を味わうことのできなかった私は、館氏のバイオレンス小説に遭遇し、やっと裏通りで一級の娼婦に出逢えた気分だ。
 攻撃的な性と暴力の祭典が奏でる作品群は、私たちの内なる過激な夢であり、妄想であり、反社会的快楽そのものなのだ。祭じられた美しい獲物を犯し、汚すときの快感を知っている作者の筆力は読む者の生理に訴え、血を疾かせる勃起力に満ちみちている。
 さらに熱く、さらに激しく、とわれわれの飢えた股間をアジる館淳一という男根を持った娼婦は、牙を剥いて表通りの偽菩者どもを血の海に這いずりまわらせることだろう。

《作者より》

 近親相姦バイオレンスを集めた初期短編集の第2弾。
 最初の『姦られる』が予想外に売れたので、刊行が早められたような記憶があります。
 発行は1982年3月。手元にあるのは1985年1月の11刷ですからずいぶん売れたんですなあ。二十一世紀では信じられません。いい時代だった。(笑)
 題名は、もちろん当て字で、こういう読み方はありません。当時、担当の女性編集者だった福山八千代さんが考えてくれました。
 収録作品は『別冊SMファン』『SMスナイパー』などに収録されたもの。作者にとって一つ一つの作品は、『姦られる』よりは思い出深いものが多いような気がします。この頃は、一作一作手探りで、必死になって書いていましたから。もちろん原稿用紙に鉛筆で。(笑)

 巻頭作『淫れる』は、この本が出る前に(1982年1月)に高橋伴明監督の手で『緊縛獄舎』のタイトルで映画化されました。
 高橋氏のピンク映画界最後の作品。この後『刺青(タトゥー)あり』でメジャーになってしまいました。
 彼も近親相姦ファンで、ぼくの作品にはかねてから関心を抱いていたようです。

 自分でいうのもナンですが、この作品はなかなかよく出来てます。
 暴走族のリーダーが警察の追われて、別荘地の母と子だけがいる別荘に逃げ込む。
 この息子というのが、十六歳ぐらいのやりたい盛りなのに、なぜかまったく性欲がない。それで母親は悩んで、なんとか息子の性欲を取り戻そうとがんばるのだが、うまくゆきません。  以前に父親が何者かに惨殺され、事件の巻き添えになった息子は、その時の記憶を喪失している。どうも父親の殺害と少年の記憶喪失、性欲喪失は関係がある。
母と子を好きなようにいたぶる狂暴な若者は、結局、尋問役となって、母親から事件の真相を聞き出そうとする――。
 ギリシア悲劇を思わせる悲劇的な物語がフォーレの『エレジー』をBGMにして粛々とまた猥雑に進行してゆきます。これが果たしてポルノでしょうか。(笑)
 舞台となる別荘地は、どことは書かれていませんが軽井沢であることは一目瞭然ですね。
 この作品はアイデアに詰まった時、ふらりと入った映画館で観た『マッドマックス』が刺激となって書かれたものです。

『黒い罠は砂にまみれて』は海岸の別荘で夏を過ごす、精神を病んだ姉と、介護役をつとめる弟が悪漢に襲撃される物語です。
 フランスのフィルム・ノワール的な印象を抱かれる方も多かったようです。BGMは『太陽がいっぱい』ですか。(笑)

 そして『凶獣は闇を撃つ』。  実は、これがデビュー作なんですね。1975年『別冊SMファン』の3月号でした。

初めて館淳一の名が載った『別冊SMファン』75年3月号
小説は団鬼六、蘭光生、安芸蒼太郎が三本柱。
「館淳一」の名は一番下で見えにくい。(笑)

 この時、編集長から与えられたのが「館淳一」というペンネームだったのです。
「これにしたからね」と言われて、やはり自分のペンネームぐらいは自分でつけたいものだと思い、そのうちに別なペンネームにしようと思っているうち、なんとなく「館淳一というのも悪くないなあ」と思うようになり、ついに今に至っています。(笑)
 デビュー当時の1975年、ぼくは長野県での土木作業員やら別荘管理人の生活に見切りをつけて上京しましたが、何をしたらよいのか分からず、一介の失業者として芝園橋職安から失業手当をもらって暮らしてました。
 失業手当もらうと働いてはいけないのです。毎日ゴロゴロしてるのもなんだ、ということで書いてみたのがこの作品。以前、面識だけはあった蘭光生氏のもとに原稿を送ったら、司書房の『別冊SMファン』に紹介していただいたのです。
 冒頭「全天の星が無言の明滅で高層の寒気団の存在を教えている」という描写にひどく驚いて、「SM小説に寒気団とは……」と、ずうっと冷やかされていました。従来のSM小説とは違った構成、描写、テンポ、フィーリングが、蘭氏には違和感があったのでしょうか。
 団、蘭、千草の三巨頭に代表される「第一世代」の手法とは違ったSM小説を夢みて、この時、明らかに第二世代のぼくのような作家群が台頭しつつあったのです。

これが掲載誌面。イラストは水城淳氏

『背徳の館』は、当時、週刊誌のアンカーをやっていたぼくが、データ伝達 を待つ間、喫茶店でその出版社の原稿用紙にふっと頭に浮かんだ文章を書いてみて、その瞬間に全部のストーリーが脳裏に閃いたという作品です。
 これが冒頭の文章です。

 西方にそびえる火山を手前の丘陵が立ちはだかるように隠しているところから浅間隠と呼ばれる一帯は、軽井沢の中でも古びた洋館風の別荘が多い。

 地元の人に『夜泣き館』と呼ばれる怪談の舞台めいた洋館で保養する大学教授とその若い妻の物語。妻を犯す男は怪談の真相を身をもって知ることになります。

 収録作品中、一番マイルドな『えり子・犯されたい』でも殺戮があります。
この当時の作品では必ず誰かが血まみれで虐殺されないとおさまらなかったのだなあ。(笑)血に餓えた時期だったのかもしれません。未来の見えない失業者でしたから、小説を書いていなければ「小人閑居して不善をなす」で、危ないことに走っていたかもしれません。(笑)

《初出情報》

『淫れる』………………………『SMスピリッツ』80年4月号(原題は『淫狼死すべし』)
『悪魔の夜はむごく冷たく』…初出誌調査中。
『黒い罠は砂にまみれて』……初出誌調査中。
『凶獣は闇を撃つ』……………『別冊SMファン』75年3月号(原題は『凶獣は闇を打つ』)
『背徳の館』……………………初出誌調査中。
『えり子・犯されたい』……『SMスピリッツ』80年10月号(原題は『えり子の凄春』)

初出情報をお持ちのかたはご教示ください。

《書誌情報》

本書は二見書房からサラ・ノベルスとして新書判型で刊行された。
シリーズ廃止後、同じタイトルでマドンナ社から文庫化された。収録作品はまったく同じである。(No.12参照
収録作品はすべて当ホームページよりダウンロードできる。



ISBN4-576-00156-6 CO293
1982(昭和57)年3月15日=初版発行
発行=二見書房
定価=750円
(絶版)

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